祖父・永六輔を訪ねて 20歳、新たな「素顔」を本に - 東京新聞(2017年8月26日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201708/CK2017082602000258.html
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昨年七月に亡くなったタレント永六輔(えいろくすけ)さん(本名・孝雄)の孫で大学三年拓実(たくみ)さん(20)が、自分の知らなかった祖父の姿を知ろうと、親交のあった人たちを訪ね歩き、永さんの残した言葉を一冊の本にまとめて出版した。「大遺言」と題した本には、人生に活力を与えるようなメッセージが盛り込まれている。拓実さんは「自分と同世代の人たちにも読んでほしい」と話す。 (飯田孝幸)
「ぼくにとって祖父は永六輔じゃなくて、ずっと『孝雄君』だったんです」。拓実さんは子どもの頃から、近所に住んでいた永さんを本名で「孝雄君」と呼んでいたという。
永さんは作家、作詞家、ラジオのパーソナリティーなど多彩な分野で活躍し、巧みな話術から言葉の職人ともいわれた。しかし、拓実さんの前では仕事の話も人生哲学も一切口にしなかったという。
拓実さんは三年ほど前、永さんから何かを学ぼうと質問攻めにしたことがある。しかし、永さんは問いに対する豆知識を披露してはくれたが、心に残ることは何も言ってくれなかった。
昨年八月三十日、東京都港区の青山葬儀所であった永さんのお別れ会で、一人の若い女性が泣きじゃくっていた。話を聞くと、女性は学生時代にいじめに遭って自殺を考えたが、ラジオ番組で聞いた永さんの声が楽しそうで、優しくて、「もう一度聞きたい」と思いとどまったという。
それを機に、拓実さんは「孝雄君」ではなく「永六輔」について知りたいと思った。黒柳徹子さん、久米宏さん、タモリさん、さだまさしさんら、永さんと親しかった著名人らから話を聞いた。「かっこいい」「怖い」「優しい」「博識」…。それぞれが語る人物像はバラバラだった。拓実さんは「一つの枠に、はまらない人だった。それこそ永六輔だったのでは」。
拓実さんは高校三年の時、受験に失敗したらどうするか、永さんに相談した。答えはひと言、「楽しんで」だけ。当時は、かわされたと思ったが、今は違う。
「自分の好きなように、楽しく生きればいい。もっと大きく生きろよと言いたかったのだろう」と拓実さん。あの一言は「永六輔」から直接受け取った唯一のメッセージだった。「それ以外の言葉は必要ないと考えていたのではないでしょうか」
「大遺言」は小学館から出版。新書判百九十二ページ、九百七十二円。

大遺言:祖父・永六輔の今を生きる36の言葉

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