(余録)ロシア語で「大きい」という意味のボリショイ劇場の… - 毎日新聞(2017年8月25日)

https://mainichi.jp/articles/20170825/ddm/001/070/135000c
http://archive.is/2017.08.25-002531/https://mainichi.jp/articles/20170825/ddm/001/070/135000c

ロシア語で「大きい」という意味のボリショイ劇場のバレエ団は帝政時代以来のロシア文化の象徴である。初来日はちょうど60年前の8月。そのころ国外公演はほとんどなく、羽田空港で「幻のバレエ団」をファン約500人が出迎えた。
実現させたのは神彰(じん・あきら)さんという35歳の無名の起業家だった。コネも資金もなく、当時のソ連代表部に通い詰めて「鉄の扉」をこじ開けた。その後ソ連交響楽団やサーカスの招待にも成功した神さんは「赤い呼び屋」と呼ばれた。
破産に追い込まれ、居酒屋チェーンで復活するなど最後まで浮き沈みの多い人生だったが、ボリショイを招いたころを「幻を呼ぼうと心に閃(ひらめ)きを感じると同時に行動に移した」と振り返っている(大島幹雄著「虚業成れり」岩波書店
以来ボリショイ・バレエは日本での公演を重ねてきた。今年も6月の初来日60年記念公演に続き、来月は人気プリマのザハロワさんらによる特別公演が予定されている。もう誰も「幻」とは呼ばない。
ロシアのバレエは、帝政時代もソ連時代も国家の手厚い保護を受け、古典的なスタイルを守ってきた、いわば伝統芸能だ。特にボリショイは、ダイナミックでストレートな感情表現が魅力とされる。
ロシア・バレエ界への日本人の進出も目立つ。その一人、岩田守弘さんはボリショイで活躍後、今は東シベリア・ウランウデの歌劇場で芸術監督を務める。とかく難しいロシアとの関係にあって、バレエは日露に開かれたひとつの窓である。