(筆洗)「近所の中学校でバレー部の指導をしてほしい」 - 東京新聞(2017年8月25日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2017082502000142.html
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職場の上司から、こんなことを言われたらどうするか。「近所の中学校でバレー部の指導をしてほしい」。バレーボールの経験などないのに、上司は強引に引き受けさせようとする。
では、その条件は?と聞けば、「平日は毎日夕方に所定の勤務時間が終わってから二〜三時間ほど無報酬で、できれば早朝も勤務時間前に三十分ほど。土日のうち少なくとも一日は指導日で、できれば両日ともに指導してほしい」
そんなことを強要する上司がいたら、とんでもないブラック企業だろう。だが、そのとんでもないことがまかり通っているのが今の学校なのだと、名古屋大学准教授の内田良さんは新著『ブラック部活動』(東洋館)で指摘する。
部活動は、あくまでも「自主的な活動」だ。放課後などの部活動の指導は「勤務時間」には入らず、時間外勤務手当も出ない。しかし現実には、八割以上の中学校で全教員の部活の指導が実質的に義務付けられている。
中学校の教員の六割近くの残業時間が「過労死ライン」を越えるという過酷さの一因に部活がある。そういう現実を、どれだけの保護者が知っているだろうか。
朝も夕も部活。疲れ切っているのに土日も休めず、家族との時間もとれない。先生も、生徒も。そんな部活こそ「ブラック企業戦士への予備軍を生み出しているのではないか」との内田さんの警鐘が、重く響く。