暮らし<家族が欲しくて>(3)育児への協力  頭下げ、祖母に頼む - 東京新聞(2017年8月18日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/living/life/201708/CK2017081802000176.html
https://megalodon.jp/2017-0823-0948-10/www.tokyo-np.co.jp/article/living/life/201708/CK2017081802000176.html

子どもを保護するという児童相談所をどうしたら説得することができるのか。ヘルパー派遣などの支援計画を考える相談支援専門員(34)と市の福祉窓口の相談員(48)の女性二人が相談した結論は「父方の祖父母に支援を頼む」だった。
ただ、簡単ではなさそうだった。美咲さん(21)=仮名=に関する市などの資料には祖父母について「家族の育児への協力は期待できない」と書かれていた。さらに、美咲さん自身も「どうせ頼んでも応じてくれないと思う」と後ろ向きだった。
美咲さんは二回目の少年院を出院した十九歳のころ、祖父母と一時的に同居していた。「午後五時には家に帰ってきなさい」「携帯電話は使っちゃだめ」。しつけに厳しい祖母に耐えきれなかった。「おばあちゃんは私をわかってくれない」。家を飛び出し、夜の街に戻った。
専門員の女性は繰り返し言って聞かせた。「反発する気持ちもあると思うけど、子どものためを思うなら我慢を覚えなきゃ」。女性自身、子育ての真っ最中だった。「子育ては、あなたが考えているよりすごく大変で、おばあちゃんの協力なしでは難しいよ」。女性は美咲さんとともに、祖父母宅を訪れた。
「だから、言ったでしょう。育てられないならおろしなさいって」「あんたには散々、迷惑をかけられた」。祖母は厳しい言葉を浴びせた。美咲さんは反発する気持ちを抑え、「お願いします」と頭を下げた。生まれてくる子どものため、と思い、何を言われても我慢した。
一方で、祖母にもおなかの中のひ孫を思う気持ちがあった。妊娠を伝え聞いたときからこの日がくるのを想定し、赤ちゃんのために禁煙していた。専門員の女性から連絡を受ける前から「私がやるしかない」と覚悟を決めていたという。
祖母と孫、二人の橋渡しをした専門員の女性は「美咲も祖母が自分のことを思ってくれているのは感じつつも、うまく付き合えない部分があった。第三者が入ることで、うまく話が進んだと思う」と胸をなで下ろした。
児童相談所も、祖母の協力を高く評価し、保護の方針を見直す決定をした。
もともと子どもを隔離して保護する方針は、市の保健師からの「養育能力に不安がある」との報告、障害の診断、若年出産などが理由だった。本人と面談した職員は「以前に彼女と会って、人懐っこい性格なので困った時は誰かの助けを呼べるし大丈夫かなと感じたが、リスクがあるのも事実なので、保護の方針になった」と経緯を明かし、変更についてはこう言った。
「面談時の本人の態度、ヘルパーさんの口添え、何よりおばあちゃんの支援の見通しが立ったことが大きかった」
祖母から支援を受けて育児が始まったころ、美咲さんに、祖母に取材できないか尋ねると「私が取材されるのは反対してないけど」と言いにくそうに続けた。
「おばあちゃんは嫌がると思う。今の生活はすべておばあちゃんの考えに合わせて、私が我慢することで成り立っているから難しいです」
祖母の厳しい口調は今も少し苦手だ。育児方針の違いで衝突することもある。それでも、祖母との間で不要な波風を立ててはいけない。そんな彼女なりの、細心の気遣いが伝わってきた。 (芳賀美幸)