元号と公文書 西暦併記の義務づけを - 朝日新聞(2017年8月7日)

http://www.asahi.com/articles/DA3S13075639.html
http://archive.is/2017.08.07-064628/http://www.asahi.com/articles/DA3S13075639.html

政府は来月にも皇室会議を開き、天皇陛下の退位と改元の日取りを決めるという。新しい元号の発表はこの手続きとは切り離され、来年になる見通しだ。
代替わりは多くの関心事であり、日常のくらしにも少なからぬ影響が及ぶ。「来年夏ごろまで」とされていた改元時期の決定が早まるのは歓迎したい。
1年前の陛下のビデオメッセージは、象徴天皇のありようや国民との関係について議論を深める良い機会となった。今後の作業においても、常に主権者である国民の視点に立って考えることが欠かせない。
中国で始まった元号は皇帝による時の支配という考えに源があり、民主主義の原理と本来相いれないと言われる。一方で長い定着の歴史があり、1979年に元号法が制定された。
この法律に基づき、新元号は内閣が政令で定める。意見公募をしないことが退位特例法で決まっており、一般の国民がかかわる余地がないのは残念だ。
改元の時期は「2019年元日」と「同4月1日」が検討されている。朝日新聞世論調査では前者を支持する人が70%で、後者の16%を圧倒する。
政府はこうした意見を踏まえて、適切に判断すべきだ。
4月案は、年始は祝賀行事や宮中祭祀(さいし)が重なり、皇室が多忙なことから浮上した。しかし言うまでもなく、優先すべきは市民の日々の生活である。
年の途中で元号が変わるのは不便で、無用の混乱をもたらす。あえて世論に反する措置をとる必要はあるまい。
あわせて人々の便宜を考え、公的機関の文書について、元号と西暦双方の記載の義務づけを検討するよう求めたい。
既に併記している自治体は多いが、公の文書は事務処理の統一などを理由に元号使用が原則とされる。国民への強制はないものの、西暦に換算する手間を強いられることが少なくない。
併記の必要性は平成への代替わりの際も指摘された。国際化の進展に伴い、公的サービスの対象となる外国人もますます増えている。改元の日をあらかじめ決めることのできる今回は、運用を見直す良い機会だ。
利便性の問題だけではない。政策の目標時期や長期計画に元号が使われる例は多い。国民が国の進路や権力行使のあり方を理解し監視する観点からも、わかりやすい表記は不可欠だ。
事務作業が繁雑になるとの反論が予想される。だが、公的機関は誰のために、何のためにあるのかという原点に立てば、答えはおのずと導き出されよう。