(余録)小中学校時代の夏休みに読んだ方も… - 毎日新聞(2017年8月7日)

https://mainichi.jp/articles/20170807/ddm/001/070/176000c
http://archive.is/2017.08.07-064759/https://mainichi.jp/articles/20170807/ddm/001/070/176000c

小中学校時代の夏休みに読んだ方も多いのではないか。ノルウェーの人類学者、ヘイエルダールの名著「コン・ティキ号探検記」。南太平洋の人々の祖先は南米の先住民という自説を証明するため、いかだで大海原を渡る冒険談には心を揺さぶられた。
帆に船名の由来であるインカの太陽神が描かれたいかだはペルーから101日間をかけ、約8000キロ離れた仏領ポリネシアの小島にたどり着く。1947年8月7日のことだ。6人の乗組員の中には美しさに魅せられて島に戻った人物もいた。
スウェーデンの人類学者、ダニエルソンで、フランス人の妻と結婚後、ポリネシアに移り住んで研究を続けた。夫妻が怒ったのが仏が66年から南太平洋で行った核実験だ。本や講演を通じ、仏政府の植民地抑圧や秘密体質、核汚染の危険性などを告発した。
周辺国でも反対の声が高まった。仏情報機関がニュージーランドの港で核実験反対船を爆破する事件も起き、同国は87年、自国の非核地帯化を世界で初めて法制化する。
仏の核実験は96年で終わったが、環境汚染や健康被害が明らかになり、タヒチ島パペーテに記念碑が建てられた。碑の周辺には他の核実験場や広島、長崎から贈られた石が置かれている。
「境界線なんて見たことないね。心の中に持っている人がいるとは聞いたけど」。海を愛したヘイエルダールの言葉だ。ニュージーランドでは日本の原爆の日に合わせ、多くの学校で平和教育が行われる。海でつながる連帯を大事にしたい。

コン・ティキ号探検記 (河出文庫)

コン・ティキ号探検記 (河出文庫)