記者の目 三反園鹿児島県知事 就任1年=遠山和宏(西部報道部) - 毎日新聞(2017年8月3日)

https://mainichi.jp/articles/20170803/ddm/005/070/014000c
http://archive.is/2017.08.03-002148/https://mainichi.jp/articles/20170803/ddm/005/070/014000c

公約「脱原発」は方便か

三反園訓(みたぞのさとし)・鹿児島県知事の就任から1年がたった。九州電力に川内(せんだい)原発(同県薩摩川内市)の一時停止を求めると主張して昨年7月に当選した三反園知事と、10月の新潟県知事選で東京電力柏崎刈羽(かりわ)原発(同県柏崎市など)の再稼働に反対して当選した米山隆一知事は「脱原発候補の連勝」と言われた。だが1年で両者の違いは鮮明になった。米山知事が東電への厳しい姿勢を堅持しているのに対し、三反園知事は「私に原発を止める権限はない」と後退し、就任7カ月で川内原発の運転を容認した。これでは「脱原発」が選挙のための方便だったと言わざるを得ない。
昨年7月28日に就任した三反園知事は、8、9月に公約通り、九電に2度にわたり「4月の熊本地震で県民の不安が高まった」として、川内原発の即時停止を要請した。しかし、九電に拒否されると「私に原発を稼働させる、させないという権限はない」と発言をトーンダウンさせた。
その後、自らが12月に設置した専門家委員会が「川内原発熊本地震による異常がなかった」と結論づけたことを理由に、今年2月、「(九電に)強い対応を取る必要はない」と川内1号機の運転を容認。6月には残る2号機についても専門委の同様の意見を理由に運転を追認した。


選挙戦の重要な争点だったはず

三反園知事は選挙前、立候補を取りやめた反原発団体代表との間で政策協定を結び、知事選には脱原発の統一候補として臨んだはずだった。ところが、就任1年を前にした7月26日の記者会見では「選挙戦で私が言ったのは鹿児島を変えようということだった」と強調し、川内原発がある薩摩川内市以外では原発について語らなかったという趣旨の発言をした。自身の中では「脱原発」が選挙戦の重要な争点ではなかったということを今になって認めた形だ。
「県民主役、県民ファーストの政治を進めるつもりで走り続けた」と振り返った会見で、知事は子育てや高齢者支援、農産物のブランド化、観光促進などを政策課題に掲げる一方、自分からは原発に触れなかった。
だが以前は、原発への考えをもう少し語っていた。福島第1原発事故後の法改正で原発の運転期間は原則40年とされたが、最近、原子力規制委員会が40年を超えた運転を相次いで認め「40年ルール」は形骸化している。川内1号機もあと7年で運転開始から40年になる。知事は就任時には「40年が基本だと思っている」と語っていたが、26日の会見では、記者からの「40年を超えて原発を運転することをどう思うか」との質問に、「国に確認したい」と明確な答えを避けた。

法的権限抜きにできることある

私は同僚とともに、三反園知事の原発政策や政治姿勢を考える連載「検証 三反園流」(西部本社版朝刊)を昨年12月の第1部を皮切りに、3部にわたり担当した。就任1年に合わせ7月27日から3回掲載した第3部のテーマは新潟県との比較だった。連載のため、米山知事の最近の動静を調べ、やはり原発再稼働に慎重な前新潟県知事の泉田裕彦氏にも会いに行った。この取材で見えてきたのは、原発を止める法的な権限がなくても、知事にはできることがあるということだ。
米山知事は(1)福島の事故の原因(2)同事故の健康被害(3)柏崎刈羽原発事故発生時の避難方法−−の「三つの検証」を掲げて当選し、今もその主張を変えていない。同原発は再稼働に向けた原子力規制委の審査が終盤を迎えているが、知事が設置を表明している県独自の委員会は「三つの検証」に3〜4年かかる見込みだ。7月25日には東電トップにも「福島事故の検証なしに再稼働の議論はできない」と改めて伝えた。泉田氏も「原発には避難計画などさまざまな課題がある。それを解決しないうちは再稼働の議論はすべきでないし、今もそう思っている」と言い切った。
三反園知事は、9月に2度目の停止要請を九電に拒否された際、その後も九電にさまざまな要請をしていくと話していたが、いまだ実行には移していない。確かに原子炉等規制法の条文には、原発立地県のトップの原発稼働や停止権限に関する文言は見当たらず、厳密な意味での法的権限はないかもしれない。
しかし、新潟のケースでも明らかなように電力会社は立地県トップの意向を無視できない。三反園知事が就任したころ、複数の九電幹部は「知事が強硬に停止しろと言い続けてきたら運転を継続できるか分からない」と漏らした。熊本地震後は県民から国の避難計画の指針に対する不安の声も上がった。そうした声を国に届け、再考を迫ることも知事の立場ならできるはずだ。
三反園知事は「再生可能エネルギーの推進」を就任前から繰り返し述べていることを理由に、「脱原発」の看板を下ろしていないと主張する。再生エネの推進自体は結構なことだが、だからといって原発に向き合わなくていいことにはならない。知事は自身ができることを矮小(わいしょう)化して責任を放棄せず、主体的かつ具体的に原発の問題解決に向けた取り組みを進めてほしい。