言わねばならないこと(96)9条と自衛隊 矛盾をバネに 京大名誉教授・福島雅典さん - 東京新聞(2017年7月30日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/feature/himitsuhogo/iwaneba/list/CK2017073002000132.html
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憲法の前文と九条は戦後七十二年、朝鮮戦争で機雷除去にかかわった日本特別掃海隊の一人を除き、戦死者を出さなかったわが日本国の誇りで財産だ。しかし、安倍晋三首相は二〇二〇年までに改憲し、九条に自衛隊の存在を明記した条文を追加する考えを打ち出した。
事実上の軍隊である自衛隊を明記すると、国に憲法上の義務が生ずる。すなわち、国は紛争を抑止するに足る兵力と装備に責任を持たねばならない。自衛隊はすでに集団的自衛と称し、海外で米軍と行動を共にしている。九条に自衛隊を明記することで、この先、どれだけの兵力・装備が要るようになるのだろうか。そもそも自衛隊の人員は足りるのか。それどころか、志願者はほとんどいなくなることが想定される。
となれば、憲法一三条の「公共の福祉」に基づいて国民に応分の負担が求められることになるだろう。徴兵制だ。高等教育までの無償化を憲法に盛り込むこととセットで考えれば、自衛隊員として国を守るのは国民の当然の義務になる。
政府は集団的自衛権の行使を可能にし、武器輸出も解禁。特定秘密保護法に加え「共謀罪」法を成立させ、恣意(しい)的な捜査を可能にして治安維持を図ろうとしている。軍民両用研究という名の下に武器開発に大学を動員し始めた。残るは徴兵制だけだ。こうして官産軍学複合体ができあがる。
憲法前文と九条は高き理念であるがゆえに価値がある。この理念を失った瞬間に日本は大きく変質する。九条と自衛隊との矛盾をどうすべきか、護憲派は悩んでいるが、矛盾があるからこそ、政府は平和のための絶え間ない努力を続けねばならない。この矛盾をバネに世界に実効性ある平和的手段を提案、実践し続けることこそ、日本がすべきことだ。

<ふくしま・まさのり> 1948年生まれ。京都大名誉教授。専門は医療イノベーション創出学。先端医療振興財団臨床研究情報センター長。先端医療技術の軍事転用に警鐘を鳴らしている。