犯罪被害者への給付拡充 社会全体で支える一歩に - 毎日新聞(2017年7月26日) 

https://mainichi.jp/articles/20170726/ddm/005/070/048000c
http://archive.is/2017.07.26-011104/https://mainichi.jp/articles/20170726/ddm/005/070/048000c

犯罪被害者が経済的に困窮してはならない。不幸な事件から立ち直れる支援の一歩にすべきだ。
「犯罪被害給付制度」の拡充を、警察庁有識者会議が提言した。
柱は、厳しい支給制限がある親族間の事件での支給要件緩和と、事件で親を失った子供への支援強化だ。
この制度は、事件の被害者遺族や、大けがをした被害者本人に対し、国が給付金を支給するものだ。
しかし、親子や夫婦、兄弟など家族同士が事件の加害者と被害者の当事者になった場合、原則として給付金は支給されない。家族間の事件での支給が、社会の納得を得にくいことなどが主な理由だ。
このため、たとえば夫の暴力から逃げていた妻や実家の家族が被害に遭っても、給付の対象にならない。
また、父と母の間で殺人事件があった場合、残された子供に給付制限がかけられる。
提言では、親族間の事件であっても、暴力から逃れるために別居していたり、離婚調停中だったりしたケースは、関係の破綻を認め、他人と同様に全額支給を求めた。
また、18歳未満の子供が夫婦間の事件で親を失った場合についても、特例として全額支給の対象に挙げた。こうした子供こそ社会が救済しなければならない。
昨年摘発された殺人事件(未遂を含む)のうち、親族間は約55%を占める。新たな支給要件は、社会の納得を得られるのではないか。
有識者会議は、殺人事件などで親を亡くした子供への手厚い対応も打ち出した。8歳未満の子供について、10年分で算定している遺族給付金を、18歳までの年数分増額することを求めた。犯罪被害者遺児の学ぶ機会の保障につながるはずだ。
警察庁は提言に沿った運用を来年4月にも始める。
犯罪被害者等基本法の施行は2005年だ。被害者対策は途上である。性犯罪など潜在化しやすい被害者の支援や、重大事件で家族を失い精神的、経済的な打撃が大きい遺族に対し、息の長い支援をどう続けていくのかが当面の課題だ。
多くの人は犯罪と無縁と思っているが、事件に巻きこまれる可能性は誰にでもある。被害者は社会全体で救済していく必要がある。