揺らぐ「安倍一強」 国民の目は厳しく - 東京新聞(2017年7月25日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2017072502000127.html
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「安倍一強」の構図が揺らぎ始めた。自治体選挙で示され続ける「自民党敗北」は、安倍内閣の下での信頼回復が険しいことを示しているのではないか。
いくら自治体の選挙だとはいえ安倍晋三自民党総裁(首相)には厳しい結果だったに違いない。
自民党東京都議選での歴史的大敗に続き、仙台市長選でも党県連などが支持した候補が、民進党県連などが支持し、共産党県委員会などが支援する候補に敗れた。
二週間前の奈良市長選でも、自民党推薦候補は惨敗している。
仙台市長選から一夜明けた二十四日、菅義偉官房長官は記者会見で、「極めて残念」としながらも「直ちに国政に影響を与えるとは思っていない」と強調した。

自治体選挙では連敗
自治体選挙では、それぞれの地域の事情や政策課題が優先して問われるのは当然だが、東京都や、仙台などの政令指定都市、奈良のような県庁所在地など大きな自治体では、政権に対する有権者の意識が反映されるのも事実である。
共同通信社が今月十五、十六両日に実施した全国電世論調査によると、安倍内閣の支持率は前回六月の調査から9・1ポイント減の35・8%と、二〇一二年の第二次安倍内閣発足後で最低となった。二月時点では61・7%と高水準にあり急激な下落だ。
一連の自治体選挙の結果は、全国的な世論動向の反映と見た方がいい。安倍政権は「自民党敗北」を地域の事情だと矮小(わいしょう)化せず、安倍首相による政権や国会運営に対する厳しい批判だと、深刻に受け止めるべきである。
「安倍一強」とされてきた政治状況がなぜ揺らぎ始めたのか。
それは、現行の日本国憲法を含む民主主義の手続きを軽視もしくは無視する安倍政権の態度が、有権者の見過ごせない水準にまで達したためではないのか。

◆民主主義手続き軽視
一五年には憲法学者ら専門家の多くが憲法違反と指摘したにもかかわらず安全保障関連法の成立を強行し、今年の通常国会では参院委員会での採決を省略する「中間報告」という強引な手法を使って「共謀罪」の趣旨を含む改正組織犯罪処罰法を成立させた。
強引な国会運営に加え、政権不信の要因となったのが、衆院予算委員会できのう、国会閉会中の集中審議が行われた学校法人「加計学園」による愛媛県今治市での獣医学部新設問題である。
これまで認められてこなかった「岩盤規制」の獣医学部新設を、国家戦略特区制度に基づいて首相主導で認めるという手法だったとしても、加計学園の理事長は首相が「腹心の友」と呼ぶ人物だ。
首相がいくら「個別の案件について一度も指示したことはない」と釈明しても、自身が認めるように「私の友人にかかわることなので、国民から疑念の目が向けられることはもっともなこと」だ。
公平・公正であるべき行政判断が「首相の意向」を盾に歪(ゆが)められたと疑われることがあってはならない。関係者の証言も食い違う。
ならばいったん加計学園による新設認可を見送り、他大学による獣医学部新設計画を含めて、学部新設や定員増の必要性を検証し直してはどうか。民主主義は、結果はもとよりその過程も重要だ。
安倍内閣は、野党による憲法五三条に基づく要求を無視せず、臨時国会の召集に応じて、進んで真相解明に努めるべきである。
政権不信のもう一つの理由は稲田朋美防衛相を擁護する態度だ。稲田氏は都議選応援で「防衛省自衛隊として」自民党候補を支援するよう呼び掛けた。
自衛隊を政治利用し、行政の政治的中立性を著しく逸脱する憲法に反する発言であり、都議選大敗の一因ともなった。撤回すれば済む話でもない。南スーダンPKO部隊の日報隠蔽(いんぺい)問題と合わせ、野党の罷免要求は当然である。
しかし、首相は罷免要求を拒否している。稲田氏の政治的立場が首相に近く重用してきたからだろうが、憲法に反する発言をした閣僚を擁護するのは、憲法を軽視する首相自身の姿勢を表すものだ。
来月三日にも行う内閣改造での交代で済ませてはならない。

◆批判集約へ選択肢を
首相が今後いくら丁寧な説明や政権運営に努めたとしても、憲法軽視の政治姿勢を改めない限り、弥縫(びほう)策にすぎない。「安倍政治」の転換は、首相自身が進退を決断しないと無理かもしれない。
世論調査結果が示すとおり、安倍内閣継続の大きな要因は「他に適当な人がいない」からだ。都議選のように受け皿さえあれば批判票は集約できる。
来年九月には自民党総裁選、十二月までには衆院選がある。そのときまでに「安倍政治」に代わる選択肢を示せるのか。与野党ともに存在意義が問われている。