朝鮮学校訴訟 無償化の原点に戻れ - 朝日新聞(2017年7月21日)

http://www.asahi.com/articles/DA3S13047050.html
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教育の機会を公平に保障するという制度の理念に立ち返って判断すべきなのに、あまりに粗雑な論理で導いた判決だ。
高校の授業料無償化の対象から朝鮮学校を除外した国の処分をめぐる裁判で、広島地裁は19日、「国に裁量の逸脱はなく、適法だ」として、広島朝鮮高級学校側の訴えを退けた。
判決が焦点をあてたのは、学校と朝鮮総連との関係だ。
国は、過去の新聞記事や公安調査庁の報告書をもとに、「朝鮮総連の『不当な支配』を受け、無償化のための支援金が授業料に使われない懸念がある」と主張。判決はこれを認めた。
この先も資金流用がありうると、どんな証拠に基づいて判断できたのか。地裁が取りあげたのは、約10年前の別の民事訴訟の判決だ。「総連の指導で学園の名義や資産を流用した過去がある」と指摘し、「そのような事態は今後も起こりえると考えられた」と結論づけた。総連の支配の継続については「変更や見直しを示す報道が見当たらなかった」ことを理由にした。
朝鮮学校が総連と関係があるとしても「不当な支配」とまでいえるのか。地裁が実態の把握に力を尽くしたとは言い難い。
原告側は生徒や教員の証人尋問や学校での現場検証を求めた。だが、地裁は採用せず、代わりに授業内容などのビデオ映像が法廷で上映された。
少なくとも朝鮮学校や総連の関係者を証人として法廷に呼び、財務資料を提出させるなどし、国の主張が正当かを具体的に確認すべきではなかったか。
高校無償化は10年に民主党政権で導入されたが、朝鮮学校は、北朝鮮の韓国・大延坪島(テヨンピョンド)砲撃を理由に適用が見送られた。12年の第2次安倍内閣の発足後、下村博文文科相拉致問題などで「国民の理解が得られない」とし、対象から外した。
政治・外交問題に直接関係のない朝鮮学校の生徒に、まるで「制裁」を科すような施策には、国連の人種差別撤廃委員会も懸念を示している。
中華学校ブラジル人学校など40余りの外国人学校が無償化の対象になっている。申請を国が認めなかったのは朝鮮学校だけ。制度の本来の目的に立ち返り、国は適用を検討すべきだ。
多くの大学・短大が朝鮮高級学校生の受験資格を認めているのも、日本の高校に準じた教育水準とみなしているからだ。
問われているのは、子どもの学ぶ権利に関わる教育行政の公平性である。原告側は控訴する方針という。高裁は丁寧な審理を尽くしてほしい。