過労労災最多 「心の病」を防がねば - 東京新聞(2017年7月19日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2017071902000133.html
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過労死などの労災申請者数が二〇一六年度に過去最悪となった。特に増えているのが長時間労働パワハラを原因とする「心の病」による労災申請。それも正社員が多くを占めるのが特徴だ。
厚生労働省が発表した過労死等労災補償状況によると、脳・心臓疾患や心の病で労災申請した人は前年度よりも約百人増え、二千四百人余に上った。 
急増しているのが心の病によるもので、全体の六割超を占める。心の病での労災認定は四百九十八人と過去最多で、自殺者数は未遂も含め八十四人だった。
心の病による労災申請が右肩上がりに増えている背景について、厚労省は過労死等防止対策推進法の施行などで「業務による精神疾患が労災認定の対象になると周知されてきたため」と説明する。しかし、それだけではないだろう。
全労働者に占めるパートなど非正社員の割合は四割近くに達している。企業は非正社員を増やす一方、正社員の数を絞り込んでおり、正社員に仕事の負荷がかかる状況になっている。労災申請も圧倒的に正社員によるものが多い。職場の労働環境は改善されていないと言っていいだろう。
労災認定された人々の年代別では、三十歳以上が前年度とほぼ同じだったのに対し、二十歳代が二十人増の百七人と突出して増えている。余裕がないため、入社間もない社員を教育期間もないまま、即戦力として働かせる企業が増えていると専門家は指摘する。
また、労災認定の理由は、パワーハラスメントを含む「ひどい嫌がらせ、いじめ、暴行」が「仕事内容・量の大きな変化」などを上回り、初めて最多となった。全国の労働局、労働基準監督署に寄せられる相談件数も一六年度、「いじめ・嫌がらせ」が七万件超と五年連続でトップになっている。
人間関係が荒廃している職場が増えているのかもしれない。経営者はいま一度、社内を巡察してみたらどうか。
性的嫌がらせ、セクシュアルハラスメントや妊娠、出産を理由とする嫌がらせマタニティーハラスメントは法律で定義され、企業は防止するための体制整備が義務付けられている。だが、パワハラについては規定はない。法定化は待ったなしだ。
また、違法な働かせ方から自らを守るため、子どものころから労働法制を教えることを国に義務付ける法案が超党派議連で検討されている。一歩でも前に進めたい。