(筆洗)気になるのは、この国が難民にどれだけ門戸を開いているかだ - 東京新聞(2017年7月14日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2017071402000137.html
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イエーシュ・ピュール・ビエルさん(22)は、リオ五輪で一つの夢をかなえた。出場した陸上男子800メートルでは予選最下位。しかし、選手村にいた彼にある朝、一本の電話がかかってきた。
彼の母国・南スーダンでは内戦が続き、故郷の村も戦闘に巻き込まれた。ビエルさんは家族と離れ離れになり、隣国の難民キャンプに逃れ、十歳からひとりきりで生きてきた。
だが、「難民選手団」の一員として彼がリオ五輪に出ていることを知った母が、援助機関に頼んで国際電話をかけた。生きているかどうかも分からなかったお母さんの声を、聞くことができたのだ。
国際オリンピック委員会が、東京五輪にも「難民選手団」を参加させる方針を確認したという。ビエルさんも「東京で世界記録樹立を」と意気込んでいるそうだが、気になるのは、この国が難民にどれだけ門戸を開いているかだ。
昨年は一万人を超える人々が難民認定を求めたが、政府が認めたのは、わずか二十八人。認められなかった人が異議を申し立てた場合は、法相に任命された有識者らが審査するが、この審査で「難民相当」と認められた人ですら、法相が「不認定」で押し通すことも多いというから、ほとんど「開かずの門」である。
門を閉じたままで、三年後の東京五輪を迎えるのか。それで、「難民選手団」が躍動する姿に、心から拍手を送れるのだろうか。