(余録)われわれ人民が比較的安心して生きているのは… - 毎日新聞(2017年7月11日)

 
https://mainichi.jp/articles/20170711/ddm/001/070/173000c
http://archive.is/2017.07.11-001655/https://mainichi.jp/articles/20170711/ddm/001/070/173000c

「われわれ人民が比較的安心して生きているのは、彼ら『役人の頭』もだいたいわれわれ人民の頭と同様であろう……われわれが悲しいと思うものは彼らも悲しいと聞いてくれるであろう、こう思えばこそである」
「役人の頭」と題した一文にこう記したのは大正・昭和期の法学者、末弘厳太郎(すえひろいずたろう)である。彼は「法治主義」が成り立つために必要なのは「『役人』がわれわれとだいたい同じような考え方をしてくれるということです」と記している。
だが役所に入れば、人民のための法律や役所でなく、法律や役所のための人民という「役人の頭」が出来上がってしまう。末弘は役人に対し何よりも良心と常識に従って行動すべきことを訴えている。
在職中の座右(ざゆう)の銘(めい)は「面従腹背(めんじゅうふくはい)」だという前川喜平(まえかわきへい)・前文科事務次官である。さてこの面従腹背は「役人の頭」の保身の産物なのか。それとも時の上司や、政権の「頭」から、国民と同じ良心や常識を守るための隠れみのだったのか。
加計(かけ)学園問題での衆参委の閉会中審査であらためて獣医学部新設の不合理なプロセスや背後の首相官邸の動きを証言した前川氏だった。一方、政府側は国家戦略特区制度での選定手続きの適正を主張して、真相解明の進展はなかった。
法治主義は実に諸君(役人)の頭のみを頼りにした制度」であると末弘は記す。役所の文書の示す政策決定の理不尽(りふじん)を告発する退職官僚、証拠も示さずに記憶がないなどとそれを否定する現役の役人や政治家。「役人の頭」の現実だ。