核禁止条約 廃絶への歴史的一歩に - 東京新聞(2017年7月9日)

http://www.asahi.com/articles/DA3S13026582.html
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核兵器のない世界」の実現に向けた歴史的な一歩だ。
核兵器保有や使用、実験などを幅広く禁じる初めての条約が国連の交渉会議で採択された。9月から各国の署名が始まり、50カ国の批准で発効する。
採決では国連に加盟する国の3分の2近い122カ国が賛成した。米ロ英仏中などの核保有国や北朝鮮は交渉をボイコットし、日本や韓国、北大西洋条約機構NATO)加盟国など、米国の核の傘に入る国々もオランダを除いて参加しなかった。
交渉では「核の使用をちらつかせる脅し」が禁止対象に加わった。核保有国はもちろん、核の傘の下の国が条約に入るのは困難になった。日本の大使は「署名しない」と断言した。
だが、条約は国際的な規範である。発効すれば、核兵器の抑止力に頼った安全保障政策は国際法上、正当化できなくなる。その意義は大きい。
すでに中南米や南太平洋、東南アジア、アフリカ、中央アジアでは核兵器を禁じる非核兵器地帯が実現している。条約で「核兵器は違法」との規範を確立することは、核に固執する国々に政策転換を迫る、さらなる圧力となるだろう。
そうした国々の政治家や国民に認識してもらいたいのは、核兵器の非人道性だ。
広島、長崎で20万人以上が殺され、生き延びた人も放射線の後遺症に苦しむ。核保有国は戦後も世界中で2千回を超す核実験を繰り返し、先住民を中心に多くの人々を被曝(ひばく)させた。
条約の前文は、核兵器使用の犠牲者(ヒバクシャ)や核実験被害者の「受け入れがたい苦痛と被害」に触れた。核がもたらす非人道的な結末を二度と繰り返してはならない、という固い決意が込められている。
この点で国際社会を失望させたのは、交渉を冒頭で退席した日本政府だ。被爆国でありながら、米国の核の傘に頼る安全保障政策を変えようとしない。
核・ミサイル開発を急ピッチで進める北朝鮮は深刻な脅威だ。一方の北朝鮮は、米国の核こそ脅威だと反論する。双方が核に依存し続ける限り、核が使われるリスクは消えず、核兵器のない世界も近づかない。
日本は、条約成立へ向けた各国の動きを、核の傘からの脱却をはかる機会ととらえ、その道筋を真剣に考えるべきだ。
条約は、加盟国が集まる会合に、非加盟国がオブザーバーとして参加できる規定も盛り込んだ。日本はこうした機会を積極的に生かし、条約への早期加盟の可能性を探ってほしい。