(余録)申請書類にわずかな不備でもあれば… - 毎日新聞(2017年7月6日)

https://mainichi.jp/articles/20170706/ddm/001/070/158000c
http://archive.is/2017.07.06-014959/https://mainichi.jp/articles/20170706/ddm/001/070/15

申請書類にわずかな不備でもあれば容赦なく突き返す役人のしゃくし定規を「レッドテープ・マインド」という。レッドテープとは、昔の英国で公文書を束ねた赤いひもで、役人の形式主義のシンボルとされた。
庶民にはなんともわずらわしい役所の書類崇拝(すうはい)=レッドテープである。だが近代の官僚制の特徴の一つに「文書主義」が挙げられるのは、その事務や事業、意思決定を後から検証できるようにして行政の公正さを確保するためである。
ならば国有地を時価の14%で売却した役所が、その経緯を記録で示せないなどとはありうべからざることである。むろん森友問題での財務省のことで、国民の財産を預かる者はいつでもその処理の公正なことを立証する責務があろう。
驚いたのは森友問題で「売却は適正」「記録はない」と木で鼻をくくったような国会答弁をくり返した理財局長が国税庁の長官になった人事である。税のレッドテープに悩まされてきた納税者にはあっけにとられる財務省の「公正」だ。
今や官僚の人事を握る政権中枢は「適材適所」(官房長官)だという。まさか売却の適正さを記録で立証できずに政権への国民の不信を増幅させたのを評価したのか。政権も財務省もこと税をめぐる国民の感情を軽んじてはならない。
改憲にご執心の安倍晋三(あべしんぞう)首相だが、ならば英国のマグナカルタ(大憲章)や、米国憲法をこの世に生み出したのは何かを思い出してほしい。そう、不公正な徴税や税の使途への人々の憤激にほかならない。