原発事故旧経営陣3被告初公判 被災者ら真相解明に期待 - 毎日新聞(2017年6月30日)

https://mainichi.jp/articles/20170701/k00/00m/040/123000c

世界を震撼(しんかん)させた東京電力福島第1原発事故の刑事責任を巡る強制起訴裁判が始まった30日、東京地裁の法廷では福島県などから駆けつけた被災者らが傍聴した。勝俣恒久元会長(77)ら旧経営陣の3被告は謝罪をしつつも無罪を訴えたが、「本当に事故を防げなかったのか」との疑念を抱く被災者らは裁判での真相解明に期待した。
初公判は午前10時、開廷。勝俣元会長と元副社長の武黒一郎(71)、武藤栄(67)両被告は黒や濃紺のスーツとネクタイ姿で入廷し、それぞれ小さく一礼した。
永渕健一裁判長に認否を尋ねられると、勝俣元会長は「起訴状に対する意見を申し上げる前に」と切り出し、「重大な事故を引き起こし、社会の皆様におわび申し上げます」と深く頭を下げた。その上で「津波による事故を予見するのは当時は不可能でした」と無罪を主張した。他の2人もそれぞれの表現で謝罪と無罪を主張する言葉を述べた。
「本日予定していた審理は以上です」。午後4時半ごろ、裁判長が閉廷を告げると、勝俣元会長ら3人はやや疲れたような表情で被告席から立ち上がり、法廷内に小さく一礼して退廷した。
この日の公判では、起訴状朗読と3被告の認否に続き、検察官役の指定弁護士が約1時間半、弁護人が1時間弱にわたって冒頭陳述を行った。その後、指定弁護士と弁護人の双方が証拠の内容を計約2時間にわたって読み上げ、休憩時間を除くと約5時間にわたる審理となった。
原発事故を巡る東電の刑事責任追及を求めてきた「福島原発刑事訴訟支援団」のメンバーなど被災者らも初公判を傍聴し、閉廷後に永田町の参議院議員会館で報告会を開いた。福島県いわき市議の佐藤和良団長(63)は「ようやく(刑事裁判が)始まった。東電の経営陣にはしっかり罪を償ってほしい」とあいさつした。
いわき市出身の社会学者、開沼博さんも裁判を傍聴。「原発事故からここまで長い時間がかかった。東電にもっと安全に向き合う姿勢があれば、事故は防げたのかもしれないと感じながら傍聴した。裁判で事実の解明が進むことを望みたい」と話した。【飯田憲、平塚雄太、巽賢司】
3被告、株主代表訴訟でも被告 株主側と争う
勝俣恒久元会長は1963年入社。主に企画畑を歩み、原発トラブル隠しの不祥事で引責辞任した前任者を継ぎ、2002年に社長に就任した。日本経団連副会長など財界の要職も歴任。会長を12年に退任するまで計10年間、巨大組織のかじ取りを担った。東日本大震災後は、体調を崩した清水正孝社長(当時)に代わり事故対策の陣頭指揮を執った。
武黒一郎元副社長は69年入社で原子力畑を歩んだ。07年の新潟県中越沖地震の際は、火災を起こした柏崎刈羽原発の事故対応のため現地に常駐した。大震災後は首相官邸に詰めたが、吉田昌郎福島第1原発所長(当時、故人)に原子炉への海水注入中断を指示するなど混乱を招いた。
74年入社の武藤栄元副社長も原子力畑を歩み、中越沖地震後は耐震化や津波対策を担当。大震災後は記者会見にも多く出席した。
3人は、株主が旧経営陣に総額22兆円の返還を求めた東京地裁株主代表訴訟でも被告となり、株主側と争っている。【伊藤直孝】