(筆洗)「軍として投票をお願いする」。寒けがする。 - 東京新聞(2017年6月29日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2017062902000146.html
https://megalodon.jp/2017-0629-1016-01/www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2017062902000146.html

井上ひさしさんの短編に「括弧(かっこ)の恋」という不思議な作品がある。括弧とはワープロ上のカギカッコ記号のこと。主人公の使うワープロが不調で、終わりカギカッコ(」)が表示されぬ。
ここからがおかしい。キーボードの記号たちが人間のように会話を始め、」に不具合の理由を聞く。」は、始めカギカッコ(「)さんのことが好きなんですと言い出す。それなのに文章上ではどうしても離れ離れにされるのでおろおろしてしまうと胸の内を明かす。とくに「さんとの間に君なんか嫌いダヨ、なんて文章が入ってきたときにはご飯も喉を通らないそうで「その文章を受けて締(し)め括(くく)るのがほんとうにいやだった」
」に心があれば、こんなおぞましい文章を愛(いと)しき「さんとの間に置くことを強く拒むに違いない。「ぜひ当選、お願いしたい。防衛省自衛隊防衛大臣自民党としてもお願いしたい」。都議選の自民党候補を応援する稲田朋美防衛相の問題発言である。
自衛隊として投票をお願いとは、行政の中立性もどこ吹く風、自衛隊の政治利用もおかまいなしである。自衛隊を軍に置き換えて考えてみる。「軍として投票をお願いする」。寒けがする。
政治、行政の初歩さえ怪しい防衛相には重いお咎(とが)めがあるものと思いきや、政府首脳のこんな発言である。「撤回した。これで終わりだ。
…あれっ、」がなぜだか表示できない。