大崎事件再審 司法の恥と受け止めよ - 東京新聞(2017年6月29日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2017062902000147.html
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「やってないものは、やってない」−。殺人罪で服役した原口アヤ子さんは一貫して無実を叫んだ。その願いは第三次の再審請求でやっと重い扉を開けた。裁判所は早く無実を認めるべきである。
厳しい取り調べにも、原口さんは一度も罪を認めたことはない。例え話であるが「認めれば仮釈放される」などの誘いにも乗ったことはない。事件は鹿児島県大崎町で一九七九年に起きたが、物証はないに等しく、共犯者とされる者たちの証言のみで立証されている。
知的障害者も含まれる。かつ共犯者も後に証言をひるがえして、原口さんの関与を虚偽であったとしている。それでも原口さんは懲役十年の刑を受け、服役を終えている。どんな証拠によるものだろうか。
発端は、義理の弟が自宅から一キロ離れた用水路に自転車とともに倒れていた。泥酔していたのだ。村人に引き上げられ、家まで軽トラックで送り届けられたものの、その後、所在不明となった。
義理の弟は敷地内にある牛小屋の堆肥から死体となって発見された。原口さんの夫らが逮捕された。確定判決では「タオルによる絞殺」である。今回の弁護側は鑑定書を基に「死斑などがなく、窒息死の所見は認められない」と指摘しつつ、「自転車事故による出血性ショック死の可能性が高い」と訴えていた。
検察から開示されたネガフィルムを基に現像した写真を調べても、遺体の皮膚に変色が見られなかった。つまり、首を絞めて殺害したとする供述は信用できなくなる。弁護側はそう主張した。
また、第二次再審請求の抗告審で「親族の自白を支えている」と判断された義妹の「共犯者から殺してきたと聞いた」という証言についても、「体験していないことを話している可能性が高い」とする鑑定書を出していた。
要するに「大崎事件」は人が死んでいたことは事実であるが、殺人事件であったかどうかさえ、あやふやである。確たる証拠は何もないのではないか。死体遺棄のような状態であったから、警察が殺人事件だと思い込んでしまったのではないか。
たまたま死亡した義理の弟に郵便局の簡易保険を原口さんがかけていたから、事件の首謀者に仕立て上げられたのだろう。原口さんは既に九十歳。三審制でも過去二回の再審請求でも救えなかった。司法界の恥と刻まれる。