性犯罪の厳罰化 被害者支援も充実を - 東京新聞(2017年6月28日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2017062802000150.html
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性犯罪を厳罰化する改正刑法が七月に施行される。強姦(ごうかん)罪の法定刑の下限を引き上げ、加害者起訴のために被害者の告訴を必要とする「親告罪」規定の削除などが柱だ。支援態勢も充実させたい。
先の国会で成立した改正法は強姦罪の名称を「強制性交等罪」に変え、法定刑の下限を懲役三年から五年に引き上げる。被害者の心や体を傷つける性犯罪は「魂の殺人」といわれながら、現行の強姦罪は強盗罪の懲役五年よりも軽い。
性犯罪に関する刑法が大幅に見直されるのは、百年以上前、明治時代に法制定されて以来である。自らの過酷な体験を実名で語ってきた被害者たちの行動が実を結んだ。
強姦罪や強制わいせつ罪などでは、親告罪の規定をなくす。現行法のように被害者の告訴がないと処罰できないというのでは、犯罪が表に出にくいからだ。
「被害者の側も落ち度がある」という偏見や無理解も、犯罪を埋もれさせてきたのだろう。被害者の申告率は低い。追い詰められて告訴を取り下げる被害者は少なくなく、多くが泣き寝入りになっている。裁かれるべきはむろん加害者だ。
改正法には新たな視点も加わった。性犯罪の被害者は女性、加害者は男性、という固定的な規定ではなく、被害者は男性もなりうるとして性別を問わない。
監護者わいせつ罪、監護者性交等罪も新設された。家庭で起きる性的虐待の加害者は大半が親だ。十八歳未満に性的な行為をした場合に暴行や脅迫がなくても適用される。自分を守ってくれるはずの親から虐待される子どもは、わが身に起きている問題を自覚したり訴えたりすることが難しい。
これまで見過ごされてきた被害を明るみに出し、新たな被害を生まないための一歩前進といえる。
一方で課題も残った。
強姦罪から強制性交等罪に罪名が変わっても、罪を問えるのは、抵抗できないほどの暴行や脅迫を受けた場合である。突然の出来事に体がこわばり、恐怖で声も上げられなかった被害者はいる。抵抗しないなら性交に合意があったかのようにとらえるのは、被害の実態にあっていない。
性暴力のダメージは長く続く。トラウマ(心的外傷)やリストカット、自殺衝動に苦しみ、回復のスタートラインにも立てない人がいる。性犯罪専門のワンストップ支援センターや被害回復の支援態勢を全国で充実させるべきである。