首相改憲発言 国民の目そらす思惑か - 朝日新聞(2017年6月27日)

http://www.asahi.com/articles/DA3S13006103.html
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安倍首相が先週末の講演で、自民党憲法改正原案について「来たるべき臨時国会が終わる前に、衆参の憲法審査会に提出したい」と語った。
2020年の改正憲法施行をめざし、これまで年内に原案をまとめる意向を示していた。臨時国会に言及することで、さらにアクセルを踏み込んだ形だ。
強い疑問が浮かぶ。日本はいま、それほど改憲を急がねばならない状況なのだろうか。
首相の主張の中心は戦争放棄と戦力不保持をうたう9条の1項と2項を維持しつつ、自衛隊を明記するというものだ。
だが自衛隊には幅広い国民の支持がある。明記を急ぐ合理的な理由があるとは思えない。
もう一つ、首相があげているのが高等教育の無償化だ。
これは憲法に書くか否かではなく、財源の問題だ。財源を用意し、自らの政策判断で進めれば改憲しなくてもできる。
本紙の主要企業100社アンケートでも、首相のめざす「20年の憲法改正」を「めざすべきだ」と答えたのはわずか2社。39社が「時期にはこだわるべきではない」と答えた。
そんな状況下でなぜ、首相は改憲のアクセルをふかすのか。
内閣支持率の急落を招いた、加計学園の問題から国民の目をそらし、局面を変えたい。そんな思惑はないか。
首相は講演で語った。「(獣医学部の新設を)1校だけに限定して特区を認めたが、中途半端な妥協が結果として国民的な疑念を招く一因となった」「速やかに全国展開をめざしたい」
明らかな論点のすり替えだ。
問われているのは、規制改革が「中途半端」だったかどうかではない。首相の友人が理事長を務める加計学園が事業主体に選ばれた過程が、公平・公正であったかどうかだ。
首相が今回、講演先に選んだのは、産経新聞の主張に賛同する任意団体「神戸『正論』懇話会」だった。5月には読売新聞のインタビューと、日本会議がかかわる改憲集会に寄せたビデオメッセージで「20年改憲」を打ち出した。
主張の近い報道機関や団体を通じて改憲を説く一方で、国会で問われると、読売新聞を「ぜひ熟読して」と説明を避ける。まさにご都合主義である。
首相がいまなすべきは、憲法53条に基づく野党の要求に応じて速やかに臨時国会を開き、自らや妻昭恵氏に向けられた疑問に一つひとつ答えることだ。
憲法無視の首相が、憲法改正のハンドルを握ることは許されない。