(余録)「朝起き福の神」… - 毎日新聞(2017年6月21日)

https://mainichi.jp/articles/20170621/ddm/001/070/157000c
http://archive.is/2017.06.21-045821/https://mainichi.jp/articles/20170621/ddm/001/070/157000c

「朝起き福の神」。めでたい文句だが、魚河岸の仲卸などで使われていた符(ふ)丁(ちょう)で「あさおきふくのかみ」の9文字で1〜9の数を表す。つまり「お」は3、「の」は7で、部外者に分からぬよう用いたそうだ。
約50年前に刊行された「魚河岸百年」は、店ごとに決めていた符丁をいくつも紹介している。「たからぶねいりこむ(宝船入り込む)」「いつまでもかわらず(いつまでも変わらず)」。縁起のよい言葉に込めた魚河岸の願いである。
さて築地市場豊洲移転問題では「よろしかるべきこと(よろしかるべき事)」をめぐって市場関係者の意見が割れた。議会各派の主張も分かれ、東京都民、いや全国民が注目するところとなった小池百合子(こいけゆりこ)都知事の「決断」である。
「築地を守り、豊洲を生かす」。その都知事の説明は何とも分かりにくいものだった。豊洲への移転を行った上で、築地にも市場機能を残して5年後に再開発するという。豊洲も新たにITを活用した物流拠点へと再整備する構想だ。
そういえばアウフヘーベン止揚(しよう))という難しい哲学用語で市場移転問題を語っていた都知事だった。なるほどこの言葉を用いた哲学者のヘーゲルが「あれもこれも」の哲学だという批判を受けていた理由が今になってよく分かった。
国政への影響も大きそうな23日からの都議選だが、都民が審判を下すには、もっと説明のほしい都知事の市場移転構想である。それは魚河岸の願い「あきないのしやわせ(商いの幸せ)」をもたらせるのか。