核禁止条約 政策を転換する契機に - 朝日新聞(2017年6月20日)

http://www.asahi.com/articles/DA3S12995430.html
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米ニューヨークの国連本部で、核兵器禁止条約をつくる交渉会議が再開した。交渉には100以上の非核保有国が参加しており、来月7日の会期末までに採択される見通しだ。
議長が示した原案は、前文で「核兵器使用の犠牲者(ヒバクシャ)や核実験による被害者の苦難を心に留める」とうたい、「いかなる核兵器の使用も国際法の原則に反する」と明記した。核兵器の悲惨さを訴えてきた被爆者の気持ちを反映した案だといえよう。
採択されれば、核兵器廃絶への重要な一歩となるのは間違いない。
交渉にはすべての核保有国と北朝鮮が参加していない。
米国やロシアは条約に対し、「世界を不安定化するものだ」と非難を繰り返している。邪魔だとはねつけるような姿勢は、残念でならない。
核兵器は非人道的で、使われれば人類の生存や地球の環境に大きな影響を与える。原案はこうした考えをもとに、核兵器を持つことや使用、爆発をともなう実験などを禁じている。
核兵器に頼った安全保障は、一時的に安定をもたらしたとしても、人類にとって長く続くものと考えるべきではない。条約をきっかけにし、核兵器は危険で違法であるという認識を核保有国の国民に広げ、政策をかえるよう迫る必要がある。
米国の「核の傘」に入っている国も、大半が交渉への参加を見送った。日本や韓国、オーストラリア、北大西洋条約機構NATO)に加盟するカナダや欧州諸国がそうだ。
しかし条約の原案には「核兵器の使用をちらつかせる脅し」を禁止する直接的な文言はない。核の傘に入る国が、いずれは条約に加盟できるよう配慮した、という見方もある。
こうしたなかで被爆国である日本が参加しないのは、被爆者の気持ちにそむく態度と言わざるを得ない。日本政府は、核保有国と非核保有国の間の溝が深まることや、核・ミサイル実験を繰り返す北朝鮮の脅威などを不参加の理由としている。
日本は国際社会の溝を埋める「橋渡し役」を自任していたのではなかったか。米国や韓国など関係国と連携して北朝鮮への対応をとり、同時に今からでも核兵器禁止条約の議論に加わって、廃絶へつなげるための方策を練る責務があるはずだ。
条約は国連総会での採択で成立する見通しだ。実効性を高めるには、1国でも多くの加盟が望ましい。日本はその道筋を率先して考えていくべきだ。