メディア時評 際立つNHKの消極姿勢=浮田哲・羽衣国際大教授(メディア論)- 毎日新聞(2017年6月1日)

https://mainichi.jp/articles/20170601/ddm/005/070/007000c

加計(かけ)学園の獣医学部新設問題がメディアをにぎわしている。事の発端は5月17日の朝日新聞朝刊で、「新学部『総理の意向』」という見出しでこの問題を報じ、大きな反響を呼んだ。朝日新聞は18日朝刊でも実名と日付の入った別のメモを文部科学省の内部文書として載せたが、文書には「官邸の最高レベルが言っている」との記述があった。
この内部文書に関してはNHKが不可解なニュースを放送している。なんと朝日新聞が一連の報道をする前日16日深夜の「ニュースチェック11」で既にこの文書を紹介しているのである。ところがその際、「加計学園」の名前は出さず、「国家戦略特区」も「規制緩和」と言い換え、肝心の「官邸の最高レベル」という文字は黒塗りで消し、放送では全くそのことには触れなかった。「文科省は設置予定の獣医学部に課題があるとしている」というだけの地味な扱いだったが、この文書の持つ意味をNHKの記者たちが分からなかったとは到底思えないので、その報道姿勢が理解できない。
17日に朝日新聞が報じた文書についても、NHKは同日の正午のニュースで最初に取り上げたものの、ニュースの順番としては5番目の扱いで時間も2分46秒と短く、夜のニュースでも扱いは3番目以降。トップ項目はどのニュースも「眞子さま婚約」であった。
同日の民放のニュースを見てみると、テレビ朝日系の「報道ステーション」は文科省文書の問題を冒頭14分、TBS系「NEWS23」でも冒頭で8分30秒取り上げ、両番組とも獣医学部新設が突然認められたことについて安倍晋三首相に説明を求めていた。比較してみるとNHKの消極姿勢が際立っているように思える。
毎日新聞は5月26日の社説「もう怪文書とは言えない」で、文書の存在を認めた文科省前川喜平事務次官の国会招致を提言している。メディアが一致して政権に真相解明を求めていくためにも、NHKが批判性を持ったまっとうなジャーナリズムを実践することを切に願う。(大阪本社発行紙面を基に論評)