(私説・論説室から)PKOの危うい新基準 - 東京新聞(2017年5月31日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/ronsetu/CK2017053102000136.html
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南スーダンの国連平和維持活動(PKO)からの自衛隊撤収が完了した。昨年七月、自衛隊が宿営する首都ジュバであった撃ち合いについて、部隊が日報に「戦闘」と書いたにもかかわらず、稲田朋美防衛相らが国会で「衝突」と言い換えた理由は何だったのか。
政府は武力紛争について「『国または国に準ずる組織』において生ずる武力を用いた争い」と定義する。そして内閣府PKO事務局は「(蜂起した)元副大統領は系統だった組織性を持っておらず、支配が確立した領域もないので『国に準ずる組織』(国準)にはあたらない」と解説する。
元副大統領派が「国準」にあたらない以上、武力紛争は発生しておらず、武力紛争の一環として行われる「戦闘」もなかった、というのが政府の理屈である。
重要なのは安倍政権が集団的自衛権行使を容認した一四年七月の閣議決定で「(PKOの)受け入れ同意があれば『国または国に準ずる組織』が自衛隊と敵対する形で登場することはない」と定めたことである。
南スーダンで国準の登場を認めると「閣議決定は誤り」となり、野党に追及の材料を与えることになる。「戦闘」を「衝突」と矮小(わいしょう)化するほかなかったのだろう。
影響は残る。今後、受け入れ同意さえあれば国準は存在しないことになり、危険なPKOでも派遣可能となるからだ。 (半田滋)