(私説・論説室から)首相と党総裁の使い分け - 東京新聞(2017年5月29日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/ronsetu/CK2017052902000126.html
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安倍晋三首相は、自民党総裁でもある。生身の人間を切り分けることはできないが、立場は時に切り替えることができる。あるときは首相として、あるときは党総裁として。
歴代の首相は二つの立場を比較的、厳密に使い分けていたように思う。選挙の候補者に公認証を手渡すときは首相官邸を使わず、必ず党本部か国会に赴いた。選挙は首相の仕事ではなく、党総裁の仕事だからである。
なぜ、このような話を持ち出したかというと、安倍氏が今月三日、「改憲派」の集会に寄せたビデオメッセージで憲法九条の一項と二項を残しつつ、自衛隊の存在を明文で書き込む、などの改憲案を言い出したからだ。
国会で真意をただす野党議員の質問に、安倍氏は「首相としてこの場に立っている。自民党総裁として一政党の考えを披歴すべきではない」と答弁を拒んだ。憲法改正の発議権は国会にあり、首相の立場で改正に言及すれば憲法尊重・擁護義務に反するためだろう。
しかし、このビデオメッセージは純粋に党総裁としての発言とは言い切れない要素がある。なぜなら、首相はこのビデオを「首相の住まい」である公邸で収録しているからだ。
安倍氏が党総裁として憲法改正に言及するのなら、ビデオの収録も党本部の総裁室で行うべきではなかったか。立場の使い分けに厳密さを欠いている。そのことはもっと厳しく追及されてもいい。 (豊田洋一)