(筆洗)PとQに気を付けて - 東京新聞(2017年5月24日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2017052402000134.html
https://megalodon.jp/2017-0524-1002-23/www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2017052402000134.html

「PとQに気を付けて」。もし、英語圏のお方にそう言われた経験がある人はご自分の態度を少し反省した方がよいかもしれない。英語独特のこの言い方で「自分の言動に気を付けなさい」とか「お行儀よくしなさい」という意味になるという。
語源がおもしろい。かつての活版印刷では左右反転させた鉛の活字を使用したが、問題になるのはPとQの判別である。
「簡単さ」という人は小文字のpとqを頭の中で左右反転させてみてほしい。それで活字を組むとなれば混乱するだろう。若い職人はよく失敗したそうで、そこから注意深く行動しなさいなどの戒めの表現となったそうだ。
さて、この国の「PとQ」の問題である。きのう衆院を通過した組織犯罪処罰法改正案。ある人にはそれが国の安全を守る上で有効なテロ対策に見える。正義の「パンチ」のPである。
しかし、別の人にはプライバシーや表現の自由を制約し、国や国民を息苦しくさせてしまうように見える。「クエスチョン」のQかもしれない。
それがPかQかで国民世論は二分している。国民は二つの活字を手にして、どっちなのだろうかと悩んでいる。政府は丁寧な説明、議論と、場合によっては大幅な修正でその懸念に答えるべきだが、これしかないと一方的に改正案成立を急ぐその姿勢をおそれる。その態度こそ「PとQに気を付けて」というのだろう。