退位特例法案 後世に残す本格審議を - 朝日新聞(2017年5月20日)

http://www.asahi.com/articles/DA3S12946317.html
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天皇陛下の退位を実現するための「皇室典範特例法案」が閣議決定された。内容は既に明らかになっていた要綱に沿うものだが、条文の書きぶり、構成など全体像がはっきりした。
改めて思うのは、典範本体と特例法の「二階建て」になることに伴うわかりにくさだ。
たとえば、典範本体には皇族の範囲をさだめる条文がある。しかし、陛下の退位に伴って新たに設けられる「上皇」「上皇后」はそこには記載されず、特例法だけの規定となる。
逆に、皇位継承順第1位(皇嗣)になる秋篠宮さまの敬称は特例法を見ても不明で、典範を開いてはじめて「殿下」だと確認できる。ほかにも、上皇皇室会議のメンバーになれないなど、両方の法律を突き合わせなければわからない事項があり、不便というほかない。
皇室は主権者である国民の総意の上になり立つ。その国民の理解をあえて妨げるような立法形式がとられたのは、退位をあくまでも例外扱いし、典範本体には手をつけたくない安倍政権の意向が働いたからだ。
今回は、いまの陛下の退位をすみやかに実現させるために、合意づくりを急がねばならないという事情があった。本来の姿ではないとしながらも、多くの識者が政権の姿勢を踏まえ、「特例法やむなし」との立場をとったのは、そのためだ。
しかし皇室をめぐっては、皇族の数と活動をこの先どう維持していくかという難題がある。「女性宮家」創設への理解が広がりつつあるが、それには典範本体の改正が不可欠だ。
名称は旧憲法当時のものを引き継いでいるものの、典範も国会のコントロール下におかれる点で他の法律と変わらない。これからの時代の皇室像を描き、必要に応じて手直しをする。そう発想を改める必要がある。
今国会での成立に向けて特例法案の審議が始まる。これまで各党・会派の間で話し合われた論点についても、改めて国会の場で考えを表明し、政府の見解をただし、それを会議録に残していかなければならない。
昨年来、退位のあり方を検討するにあたって、現行典範、さらには明治典範の制定時の資料が参照され、議論を根底で支えたのを忘れてはならない。
象徴天皇の役割は何か。陛下が大切にし、多くの国民が支持してきた「公的行為」をどう位置づけるか。高齢社会における代替わりはどうあるべきか。
現時点での考えを整理し、将来の主権者国民に届ける。審議にかかわる者すべての務めだ。