(筆洗)カーネーションさえいらないかもしれない。電話で、魔法の言葉を唱えればいい。「元気だよ」 - 東京新聞(2017年5月14日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2017051402000128.html
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その俳優の母上はとにかく、息子をほめるのだそうだ。「おまえは本当に役者に生まれてきたような子だよ」「おまえはなんてうまい役者だろう」「おまえは最高だよ」。「蒲田行進曲」「熱海殺人事件」などの風間杜夫さんのおかあさん。
ある日、終演後の楽屋にやって来るなり、息子の名演に喜びのあまり、こう大声を出した。「仲代達矢よりよかったよ。勝ったね」。隣の楽屋には共http://d.hatena.ne.jp/kodomo-hou21/edit?date=20170516#演の仲代さんがいる。風間さんがどんなに肝を冷やしたことか。
たとえ、それが聞こえたとしても、仲代さんは怒らず、ほほ笑んだのではないかと想像する。仲代さんにも同じ「記憶」がある。
俳優座時代の若き日、イプセンの「幽霊」で大役をつかんだ。上演中、どうも客席が騒がしい。騒ぎのもとは仲代さんのおかあさん。舞台を指さして、「アレ、私の息子なんです。いい男でしょ。アレ息子!」
いずれも『この母ありて』(木村隆さん・青蛙房)から拝借した。母の日である。どの母も子の成長、幸せに喜びを爆発させる。笑う。母とはそういう生き物である。そして子どもは母の喜びに照れくさく感じつつも、勇気づけられ、励まされ、その道を歩んでいく。母の笑いは子の道を照らす。
なにも名優にならずとも母の笑いは手に入る。カーネーションさえいらないかもしれない。電話で、魔法の言葉を唱えればいい。「元気だよ」