不安と課題抱え、高浜再稼働へ 京都の5キロ圏・舞鶴 - 京都新聞(2017年5月15日)

http://www.kyoto-np.co.jp/environment/article/20170515000017
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津地裁の運転差し止め仮処分決定で停止していた関西電力高浜原発福井県高浜町)4号機の再稼働が間近に迫っている。京都府内で唯一5キロ圏の地域がある舞鶴市ではこの1年余り、関電が原発への理解を求める活動を進める一方、事故時に被ばくを抑える安定ヨウ素剤の希望者への事前配布について要望する市民と市との隔たりは大きいままだ。
ヨウ素剤配布めぐり、市と市民に溝
原発から5キロ圏の同市松尾で農業を営む谷義雄さん(75)宅には月2回、関電の担当者が足を運ぶ。元自治会長の谷さんは原発に反対している。担当者は世間話をして畑で農作業を手伝うこともある。谷さんは「関電は信用できないが、しょっちゅう来るから担当者には情も湧く」と話す。
関電は、市内の5キロ圏と準ずる地域で社員による訪問活動を続けてきた。多くの地域で、事故の報告や安全対策をまとめたチラシなどを各戸に配布し、自治会長には電話連絡や直接説明をする。目的は「原子力事業への理解をいただくため」だ。住民からは「チラシはないよりはいいが、情報を伝えたから動かしていいことにはならない」と厳しい見方の一方、冬の寒い時季にも訪問をする姿に「頑張っている」との声も聞かれる。
舞鶴市はこの間も、説明会の開催やパンフレット配布で避難計画の周知に力を入れてきたが、避難の際の交通渋滞や地震による家屋倒壊時の屋内退避の在り方など課題は山積する。特に一部の市民との間に溝があるのが、甲状腺の被ばくを抑える安定ヨウ素剤の事前配布だ。
市は国の指針に従い、事前配布は5キロ圏と準ずる地域の住民だけを対象にする。市民には「混乱の中で受け取れるのか」と希望者への事前配布の要望があるが、市は「誤飲時の副作用などの責任を取れない」(地域医療課)と否定的だ。
全国では希望者に事前配布する自治体はあり、原発から全域が30キロ圏に入る茨城県ひたちなか市は昨年8月、全市民への事前配布を始めた。市健康推進課は服用時期を逃す恐れや配布場所に向かう途中の被ばくの危険性を挙げ「東日本大震災の大混乱を目の当たりにしており、緊急時の配布は現実的ではない」とする。
舞鶴市は1カ所だった備蓄場所を、昨年10月に4カ所に分散し、京都府原発から30キロ圏にある高齢者や障害者らの社会福祉施設で入所者と職員用に備蓄を検討している。希望する市民への配布を求めている「子どもの未来を考える舞鶴ママの会」の木船郁子さん(49)は「避難計画の実効性を高めるためにも安定ヨウ素剤の事前配布を考えてほしい。不安なまま再稼働が始まる」と批判する。