閲覧の自由、図書館苦慮 学校史切り取り被害拡大 - 東京新聞(2017年5月13日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201705/CK2017051302000253.html
http://megalodon.jp/2017-0513-2216-31/www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201705/CK2017051302000253.html

小中学校や高校の学校史や記念誌が切り取られる被害が十二日までに、十六県の公立図書館で確認された。いったい誰が、何のために−。専門家は学校生活に不満を抱く人物や、模倣犯による可能性を指摘。図書館は公共物の図書を守ることと、閲覧の自由との間で対応に苦慮している。

▽集合写真
「本が順番通りに並んでいない」。四月二十八日、岐阜県図書館の郷土資料コーナーを整理中に異変に気付いた司書が学校史を開くと、十冊計百三十四ページが切り取られていた。
三日後には岐阜市立中央図書館でも被害が判明。その後東海や北陸地方を中心に、東北や四国、九州地方でも発覚した。福井県立図書館では九十三冊七百八十六ページと被害が大きかった。
主に生徒の集合写真や学校行事の様子を撮影した写真が狙われたのが特徴。刃物でページごと切り取られたり、一部が破られたりしていた。多くの図書館では貸し出しをせず、館内だけで閲覧する決まりだった。
岐阜県図書館の司書渡辺基尚(もとひさ)さんは「写真に載っている人は『気味が悪い』と感じるだろう。寄贈者にも申し訳ない」と憤る。器物損壊容疑で警察に被害届を出した図書館もある。

▽罪悪感なし
今回の事件の背景は何か。関西福祉科学大の相谷登教授(犯罪心理学)は「学校生活に良い思い出がなく、学校に恨みを持つ人は多くいる」と指摘。被害を報道で知った複数の模倣犯が出ている可能性を挙げる。学校史は関係者以外が閲覧する機会が少ないとし「罪の意識が生まれにくい。面白がって犯行に及ぶ人が増えたのだろう」とも推測した。
ただ被害時期がはっきりとしないケースが多く、かなり前に切り取られていた疑いもある。

▽バランス
「知る権利」に応える役割を担う図書館は、対策の難しさを口にする。来館の事実やどんな本を読むかの情報はプライバシーに関わり、図書館は利用者の秘密を守るのが原則だ。
六十八冊が傷つけられた愛知県図書館は屋外には防犯カメラを設置しているが、館内にはない。現在は警備員の巡回を増やしたが、ある司書は「カメラでの監視は図書館にはなじまない。防犯と閲覧の自由のバランスをとる必要がある」と話す。
二冊の被害があった富山県立図書館はカメラを一切設置しておらず、今後も設けない方針。被害時期の特定が難しく、被害届も出さなかった。
沢村修副館長は「できるだけ多くの資料を提供するのが公共図書館の使命。監視されていると、市民は気持ちよく利用できない」と指摘。「マナーの啓発など、やれることから始めたい」と、五月十日から貸し出し時の伝票に「図書を大切に」と印字する対応を始めたという。