憲法施行70年 問われる理念の継承 - 東京新聞(2017年5月5日)


http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201705/CK2017050502000125.html
http://megalodon.jp/2017-0505-1147-06/www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201705/CK2017050502000125.html

施行七十年を迎えた日本国憲法は、自由や平等に対する考え方や天皇の位置付けを旧憲法から一変させた。安倍晋三首相は三日、改憲して二〇二〇年に施行し、戦争放棄などを定めた九条に自衛隊の存在を明記することなどに意欲を示したが、長い時間をかけて定着した基本的な価値観や理念を継承するのかどうかもテーマとなっている。(生島章弘)

内心の自由
戦前の日本では、政府が治安維持法などによって国民の思想弾圧を行った。現憲法はその反省から、国家権力が人の心に立ち入れないことを明確化。信教の自由や表現の自由と条文を区別して、「思想及び良心の自由は、これを侵してはならない」と規定した。
今国会で政府は、「共謀罪」の趣旨を盛り込んだ組織犯罪処罰法改正案を成立させる構えだ。二〇年の東京五輪パラリンピックのテロ対策強化を理由に、対象となる団体や罪を絞ったと強調。共謀罪と変わらず、内心の自由を脅かすと訴える野党などの反対を押し切ろうとしている。

一票の格差
性別や身分などで差別されないという「法の下の平等」は現憲法で新たに盛り込まれた基本原則の一つだ。国政では、一九四六年の衆院選で男女平等の普通選挙が初めて行われ、この時の選出議員たちが制定にかかわった。
「平等」のあり方は今、選挙区ごとの一票の重みを巡って問われている。最高裁は〇九年以降に行われた計五回の衆参両院選挙について、「一票の格差」を違憲状態と判断し、国会に抜本改革を促してきた。
だが、国会は当面の応急処置しか講じていない。
衆院では、四月に示された「区割り」改定案に基づき、公職選挙法改正案が今国会中に提出、成立する見通しだが、二〇年の見込み人口で算出した最大格差は一・九九九倍と、二倍をわずかに下回る水準。人口の少ない隣接県をまとめる合区が導入された参院では、各都道府県から必ず一人は選出できるよう、改憲を求める動きもある。

天皇退位
天皇の位置付けは、国家の統治者という立場から、日本国と国民統合の「象徴」となった。一方で、皇位に関する制度は戦前を踏襲。父方に天皇を持つ男系の男子のみが引き継ぐとし、継承も天皇崩御に限ると皇室典範に規定した。
天皇陛下が昨年八月、高齢化で「象徴の務め」が困難になるというお気持ちを示されたことを受け、政府は陛下一代限りの退位を実現する特例法の制定を決めた。近く法案を国会に提出し、成立を目指す考えだ。
ただ、陛下の孫の世代の男性皇族は秋篠宮さまの長男悠仁さま一人。女性宮家の創設や、女性・女系天皇の是非に関する議論は進まず、象徴天皇制の安定的な維持には課題が残る。