(政界地獄耳)「思考停止の凡人」が悪を作る - 日刊スポーツ(2017年5月4日)

http://www.nikkansports.com/general/column/jigokumimi/news/1817836.html
http://archive.is/2017.05.04-025752/http://www.nikkansports.com/general/column/jigokumimi/news/1817836.html

★連休を楽しむ人で行楽地はあふれているが、普通の生活を続けている人たちもたくさんいるはずだ。新聞には都立高校の約6割が、生徒が髪の毛を染めたりパーマをかけたりしていないか、生まれつきの髪かを見分けるための「地毛証明書」の提出を求めているという。駅ではガードマンがすいていようがいまいが、乗降客を誘導し続ける。そしてコンビニでは明らかな年配客でも、アルコールを購入する客には未成年か否かのボタンを押させる。
★いずれも「ルールに従っているだけ」かもしれない。だが、国際化が進み、髪の色や瞳の色が染めたものかと思わせる若者はたくさんいるし、「地毛」かどうかを確認することで秩序が守れるものだろうか。「勉強との因果関係はない」という声がネットには上がったそうだが、それでは制服も勉強には関係ないことになる。しかし制服にはそれを制定する理由があるだろうし、○か×の議論だけでない柔軟性の話だ。ガードマンは仕事でも、駅の混雑具合はその時々で変わるものだ。安全を維持するためには、言われたことだけでは済まさない臨機応変さが必要だ。
★そしてコンビニ。「必ずボタンを押させ、年齢を確認するように」とマニュアルにはあるのかもしれないが、それは店員が判別できない時だけでいいのではないか。いずれも「ルールに従っているだけ」という秩序やルールを守るために“お上”の代行を行っているわけだが、彼らにそこまでの意思や覚悟はない。問題は決められたことを守ろうとするあまりに、本質を見誤ることだ。
ナチス高官・アイヒマンは61年に裁判を受けるが、「ただ命令に従っただけ」とした。哲学者ハンナ・アーレントの言葉が、私の頭をよぎった。「考えることをせず、ただ忠実に命令を実行した。そこには動機も善悪もない。思考をやめたとき、人間はいとも簡単に残虐な行為を行う。私が望むのは、考えることで人間が強くなることだ。悪は悪人が作り出すのではなく、思考停止の凡人が作る」。(K)※敬称略