安保法任務を初実施 海自が米艦防護説明ないまま - 東京新聞(2017年5月2日)


http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201705/CK2017050202000141.html
http://megalodon.jp/2017-0502-0934-18/www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201705/CK2017050202000141.html

安全保障関連法に基づき平時に米国の艦船などを守る「武器等防護」を命じられた海上自衛隊のヘリコプター搭載型護衛艦「いずも」が一日、横須賀基地(神奈川県)を出港し、米海軍の補給艦と房総半島沖で合流、任務を開始した。安保法の新任務を自衛隊が実施するのは初。朝鮮半島情勢が緊迫化する中、不測の事態が起きにくい太平洋側での任務で、政府の実績作りが進む。(荘加卓嗣)
昨年三月末に施行された安保法を巡っては、南スーダン国連平和維持活動(PKO)に参加する陸自部隊に同十一月、「駆け付け警護」の新任務が付与されたが、実施されていない。
「いずも」は補給艦と四国沖まで一緒に航行して守る計画。日程は二日程度の見込みで、搭載ヘリやレーダーを使って周辺海域の哨戒や監視に当たっているとみられる。任務終了後、シンガポールで行われる国際観艦式に参加する。
補給艦は四国沖で「いずも」と別れた後、北朝鮮弾道ミサイル発射に備え、原子力空母「カール・ビンソン」を中心とする空母打撃群(艦隊)などが展開する朝鮮半島沖に向かう。カール・ビンソン付近の船に燃料を補給するとみられる。
今回実施する房総半島沖から四国沖にかけての太平洋側は、北朝鮮弾道ミサイル発射などを受けて緊迫化する日本海側と比べ、安全な海域。初実施は、あえて不測の事態が起こりにくい無難な状況を選んだ可能性がある。
政府は昨年末、武器等防護の運用指針を決定。指針は平時の警護や武力行使に至らないグレーゾーン事態での対応を想定していた。
日米両国は実施に向けて調整していたが、朝鮮半島情勢を受けて先延ばしの可能性もあった。だが、「戦闘艦よりも補給など後方艦の防護の方が米側のニーズが高い活動」(政府関係者)として日米双方の思惑が一致、実施に踏み切った。

◆政府「実績作り」狙う
海上自衛隊が安全保障関連法に基づく「平時の米艦防護」を初めて実施した一日、命令を出した稲田朋美防衛相は防衛省に登庁せず、公式に説明する場面はなかった。アナウンスなき安保法の発動は、北朝鮮情勢の展開によっては、国民が知らないまま自衛隊の米軍支援が進んでいく可能性を示した。
政府は平時の米艦防護に関し、米軍への妨害行為や偶発的な攻撃が発生した場合に限って実施を公表するとした運用指針を昨年末に決定。米国からの要請の有無や自衛隊の活動内容は、米軍の弱点に関わるとして原則公表しない姿勢だ。
今回の防護命令も政府の公表ではなく、報道機関の取材で明らかになった。米艦が攻撃される可能性の低い太平洋側で、なぜ防護が必要なのか、政府は国民に説明していない。これでは安全な海域での「実績作り」との批判を免れない。
国会も海自の活動内容を検証できない仕組みになっている。他国を武力で守る集団的自衛権の行使には国会承認が必要だが、平時の米艦防護は防衛相の判断だけで実施できる。
米艦防護では武器を使った反撃が可能で、状況次第では武力衝突に発展する危険性をはらむ。こうした任務が国民への情報公開も国会のチェックもなく実施される安保法の問題点が、鮮明になった。 (新開浩)