強いられた不妊手術 優生保護法「国は謝罪と補償を」 - 東京新聞(2017年5月1日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201705/CK2017050102000105.html
http://megalodon.jp/2017-0501-0930-16/www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201705/CK2017050102000105.html

「不良な子孫の出生を防止する」と定めた旧優生保護法(一九四八〜九六年)の下、障害や遺伝性疾患を理由に不妊手術などを受けさせられた人たちがいた。このうち、ハンセン病患者には国が謝罪・補償をしているが、他の人たちは取り残されたままだ。十六歳で不妊手術をされた宮城県の女性(71)による人権救済の申し立てを機に、謝罪・補償を求める声が高まっている。 (小林由比)
「子どもを産めなくされたのを知ってから苦しみが始まり、今も苦しい毎日です」。三月下旬、参議院議員会館で開かれた集会で、女性が人生を振り返った。
貧困家庭で育ち、妹弟の世話などで学校に通えなかった。中学三年の時、できたばかりの知的障害児施設に入所させられた。住み込みで家事手伝いをしていた十六歳の時、何も知らされず、卵管を縛って妊娠できなくする手術を受けさせられた。
実際は障害がないのに、県の更生相談所で受けた検査の結果、「軽症の魯鈍(ろどん)(動きが鈍いこと)」などとされ、「優生手術の必要を認められる」と判定されたことが根拠になったとみられている。術後、生理時の痛みがひどくなり、仕事も続けられず、結婚もしたが、自分の体のことが気掛かりで離婚に至った。
女性は二〇一五年六月、日本弁護士連合会に人権救済を申し立てた。日弁連は今年二月に意見書を出し、旧優生保護法が個人の尊重をうたう憲法一三条に反し、妊娠や出産の自己決定権を侵害したとして、謝罪・補償、資料を保全して実態調査を速やかに行うことを国に求めた。
女性の代理人の新里宏二弁護士は「被害者も高齢になっている。補償は待ったなしだ」と指摘する。女性の訴えを知り、同様に十代で手術を受けたとみられる別の女性の親族から「自分の意思ではない手術を受けさせられたのは残酷で、人権無視だ」との声が支援団体に寄せられた。女性は「泣き寝入りせず、一人でも多くの人が謝罪や補償を受けてほしい」と願う。

◆被害8万4000人
優生保護法 1948年施行。一部の遺伝性の病気や精神障害の人には強制手術を認め、1万6000人に対して行われたとされる。その他の遺伝性の病気やハンセン病の人には同意が必要とされ、その人たちを含めると不妊手術や中絶をされた全被害者は約8万4000人に上る。96年、遺伝性の病気、ハンセン病精神障害等を理由とした不妊手術や中絶を認めた条文などが削除され、母体保護法となった。

◆国連が補償勧告
強制不妊手術に対しては、国際的な批判も高まっている。昨年3月、国連女性差別撤廃委員会が政府に対し、強制不妊手術を受けた人への補償を勧告した。しかし、日本政府は「当時は適法に行われていたため、補償は困難」との立場だ。
1997年から国に実態解明を求めている「優生手術に対する謝罪を求める会」は日弁連の意見書を受けた声明で、昨年7月に相模原市の障害者施設で起きた殺傷事件に触れ、「私たちの社会に優生思想と障害者への差別・偏見が根深く存在することを痛感させた」と指摘した。
会の大橋由香子さん(57)は「過去に起きたこの問題に、しっかり向き合うことが重要だ」と話す。