高知・大川 村議会を廃止、「町村総会」設置検討を開始 - 毎日新聞(2017年5月1日)

https://mainichi.jp/articles/20170501/k00/00m/010/109000c
http://archive.is/2017.04.30-222047/https://mainichi.jp/articles/20170501/k00/00m/010/109000c

人口400人 議会維持難しく、迫られた「直接民主主義

離島を除けば全国で最も人口が少ない高知県大川村(約400人)が、地方自治法に基づき村議会を廃止し、約350人の有権者が直接、予算などの議案を審議する「町村総会」を設置する検討を始めた。四国山地にある村を訪ねると、過疎化と高齢化で議員の担い手が足りなくなる現実が浮かんだ。人口減少の最先端で迫られた「直接民主主義」の動きを追った。【和田浩幸】

有権者が「直接民主主義」を担うことは可能なのか
議会に代わり、有権者が「直接民主主義」を担うことは可能なのか−−。そんな議論が浮上した高知県大川村は高知市から車で約2時間。標高1000メートル以上の山々の斜面に16の集落が点在している。1971年に「四国の水がめ」と言われる早明浦(さめうら)ダムの建設に伴い、中心集落が水没。翌年には160年あまりの歴史がある主要産業の白滝鉱山が閉山したため、人口が急減した。
村は2003年、合併特例法に基づく周辺2町との法定合併協議会設置の是非を問う住民投票を実施し、賛成が多数を占めた。しかし同時に住民投票を実施した土佐町で反対が上回り、合併構想は頓挫した。
現在の6人の村議の平均年齢は70.8歳。半数の3人は75歳以上の後期高齢者だ。毎日新聞が6人全員に2年後の選挙への対応を聞いたところ、複数の村議が体力の問題などから今期限りで引退したい意向を示した。村議らは人脈をたどって若手の起用を模索しているが、「今のところ新人が出る気配がない」(村議の一人)という。
有権者は約350人。選挙に立候補できない公務員らを除く25歳以上65歳未満は100人程度で、議員の担い手は限られる。村づくりに積極的な若者も多いものの、人口減のため青年団消防団、祭りの実行委員などの掛け持ちが増えたことに加え、月額報酬約15万円で引退後の保障もない議員活動に手を挙げる人はほとんどいない。
村の青年団長で社会福祉協議会職員の筒井渉さん(25)は「村をなんとか盛り上げたいが、仕事や生活を考えると議員は難しい」と町村総会の設置に理解を示す。
実は村議会では13年と14年にも町村総会への移行が検討された。しかし村議からは「入院や介護施設に入所する高齢者が多く、総会に出席するための交通手段の確保が難しい」「有権者が一堂に会すること自体できない」などの疑問が出て立ち消えとなった。
通算8期の村議時代に全国町村議会議長会会長を務め、元村長でもある合田司郎さん(85)は「国は地方創生を掲げるが、大川村は全国の地方の縮図だ。若者が離れ、政治への無関心が広がる悪循環は何も変わっていない」と町村総会への移行に疑問を示す。
村関係者によると、村外で入院や入所している高齢者は50人前後に上るとみられる。村内を東西に貫く県道を走る路線バスは1日3往復しかなく、県道沿いの停留所まで徒歩で30分以上かかる世帯もある。70代の農業男性は「車を運転できるうちはいいが、できなくなったらどうにもならん」と語り、自らも村政を担う事態を不安視する。
村議会を通じた代議制から直接民主制への移行に向け、村民レベルの議論はこれからだ。13年、町村総会を検討する必要性を村で最初に提案した朝倉慧(あきら)議長は「村民が村の危機を共有できるよう、周知することが課題だ」と指摘。議会の見解を取りまとめるよう、近く議会運営委員会に諮問する考えだ。

(参考資料)
『シリーズ憲法の論点(2)』直接民主制の論点(山岡規雄さん)2004年9月
http://www.ndl.go.jp/jp/diet/publication/document/2004/200402.pdf

現在、両議院に設置された憲法調査会では、日本国憲法についての調査が継続しており、平成17年には最終報告書が提出される予定である。シリーズ「憲法の論点」は、憲法調査会論議に資するため、国立国会図書館調査及び立法考査局において、多岐にわたる憲法論議の中から幾つかの論点を取り上げ、争点、主要学説及び諸外国の動向等を簡潔にとりまとめたものである。

要旨
(1)近年、我が国を含め、世界的に直接民主制への関心が高まっている。本稿の目的は、直接民主制の長所・短所として指摘されている主張を検討することにある。

(2)「直接民主制」とは、国民が法律の制定や政策決定に直接関与する民主制を意味するが、本稿の考察対象は、間接民主制を補完する意味での直接民主制、すなわち、「半直接制」とする。

(3)直接民主制の長所として、民主主義原理の貫徹、国民の意思を歪める間接民主制の弊害除去、国民の政治意識の向上といった点が指摘されている。これに対しては、直接民主制といえども、国民の意思を忠実に反映することを保障するものではない、国民投票の回数が多くなるほど参加が低下する、といった反論がある。

(4)直接民主制の短所として、国民の能力不足を指摘する意見があるが、実証研究によれば、国民投票のもたらす結果については概ね信頼できるとの評価が多い。

(5)国民投票に対しては、現状維持を選択する傾向にある、問題を単純化して対立を深化させる、という批判があるが、これらの批判はすべてのケースに該当するわけではないという反論がある。

(6)直接民主制に対しては、少数派の権利を侵害する、マニフェストや選挙公約との整合性を失わせる、といった批判があるが、こうした弊害を是正する手段を保障することは可能であるという反論がある。

(7)国民投票に対しては、為政者の権威付けに利用されるおそれがあるという批判があるが、民主主義の成熟した国家では独裁につながる危険性は小さいという反論がある。