「先生の学問体系失った」 桑原武夫氏蔵書、無断廃棄 - 京都新聞(2017年4月28日)

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170428-00000002-kyt-soci
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京都大人文科学研究所を拠点とした「新京都学派」を代表するフランス文学者、桑原武夫氏の遺族が京都市に寄贈した同氏の蔵書1万421冊を2015年、当時、市右京中央図書館副館長だった女性職員(57)が無断で廃棄していた問題で、桑原氏の関係者らは「なぜ」と驚きの声を挙げた。
遺族の1人は「役立ててもらおうと市に預けたのに、なぜそんなことになったのか分からない。残念です」と言葉少なに話した。
人文研では現在、遺族から桑原氏のノートや手紙を預かって、整理している最中という。高木博志所長は、「ノートや手紙、蔵書を分析することで桑原先生の学問全体の体系が分かるはずだった。失われたことは非常に問題だ」と指摘した。
蔵書は市国際交流会館(左京区)の開館に合わせ、1988年に遺族が寄贈し、一般公開されていた。2008年、右京中央図書館の開館に合わせて移管されてからは開架されていなかった。翌年には、保存場所がないとして向島図書館に移され、15年に担当の職員から「置き場所がなく処分したい」と女性職員に相談があり、了承したという。蔵書は段ボール約400箱に詰められ、市教委職員が古紙回収に出した。
廃棄した理由について女性職員は市教委の調べに対し、「寄贈図書が、もともと図書館にある蔵書と重なっている」「市民からの問い合わせはほとんどなく、あったとしても目録で対応できる」と説明したという。
職員は生涯学部の担当部長で図書館運営の責任者だったが、27日付で減給6カ月(10分の1)の懲戒処分を受け、課長補佐級に降任した。
市の要綱では、一般的な寄贈書の管理運用は、市教委に一任されている。ただ桑原氏の蔵書は、保存を前提に市に寄託されており、他の寄贈書とは取り扱いが異なっていたという。
京大教育学研究科の福井祐介講師(図書館情報学)は「碩(せき)学の桑原氏の資料群だからこそ貴重なもの。同じ本があるから処分したというなら、一般図書の方を整理するという選択肢もあったはず」と話す。蔵書には、和漢籍や海外の文献など手に入りにくい貴重な本も含まれていたという。
右京中央図書館には、現在も「桑原武夫コーナー」として、桑原氏が生前に使用していた机や椅子、直筆のノートなど20点が置かれている。