「追悼碑」模した作品展示見送り 近代美術館の企画展 - 上毛新聞(2017年4月23日)

http://www.jomo-news.co.jp/ns/9014928781213214/news.html
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群馬県立近代美術館高崎市綿貫町)で22日始まった企画展「群馬の美術2017」で、県立公園群馬の森(同所)にある朝鮮人労働者の追悼碑を模した作品について、同館が開催直前に展示を取りやめたことが分かった。県は碑の設置許可の更新を巡って市民団体と係争中で、同館は「どちらか一方に偏るような展示は適当でないと判断した」と説明。作者で、県立女子大講師で美術家の白川昌生よしおさん(69)=前橋市=は「碑を巡る状況を問題提起したかった」としている。

◎「係争中」理由 作者が直前に撤去
作品は「群馬朝鮮人強制連行追悼碑」。木の骨組みに布を掛け、追悼碑をほぼ原寸大で表現した立体作品。歴史を後世に残そうと制作し、今年2、3月に鳥取県立博物館で展示された。
白川さんと近代美術館によると、白川さんは3月中〜下旬、追悼碑に関わる作品を展示する意向を学芸員に伝えていた。21日に会場の確認作業をしていた職員が作品に気付き、同日夜、岡部昌幸館長が展示の取りやめを決めた。白川さんは22日、開場前に作品を撤去した。
白川さんは「何か言われるのではないかという懸念はあったが、文句を言ったところで始まらない」とした。
岡部館長は「係争中の案件であるため修正をお願いした。作家から了解を得られたため決断した」と話し、五十嵐優子県生活文化スポーツ部長は「展示中止の判断は適切だった」とした。
企画展は、県内を拠点に活動する現代美術家15人の作品計約70点を6月下旬まで展示する。

◎経緯、意義に賛否 自民県議「一定配慮が必要」/市民団体「表現の自由侵害」
「展示には一定の配慮が必要」「表現の自由の侵害だ」―。県立近代美術館(高崎市綿貫町)が、白川昌生さん(69)=前橋市=の一部作品の展示に難色を示し、実現しなかったことに対し、さまざまな意見が聞かれた。
同館がある県立公園群馬の森に建立された朝鮮人労働者の追悼碑の設置許可の更新を巡って、県と市民団体の「『記憶 反省 そして友好』の追悼碑を守る会」の民事訴訟が続いている。
自民党の狩野浩志県議は美術館の対応に理解を示し、「表現の自由憲法で保障されているが、展示内容や場所には一定の配慮が必要」とした。
一方、市民団体の共同代表、黒沢孝行県議は「『こういう作品だから展示してはいけない』というのはおかしい。内心の自由表現の自由の侵害であり憲法違反だ」と話した。訴訟で原告側の事務局長を務める下山順弁護士(34)は「行政が事前にチェックし、不都合な芸術作品の展示を認めないのは、あり得ないことだ」と憤った。
博物館運営に詳しい高崎経済大の友岡邦之教授(47)は、「美術館は多様な価値を提示する場で、美術館や設置自治体が作品の意味や価値を積極的に肯定しているとは限らない。展示された作品を議論することが大切」と訴える。企画展初日の22日に作品を撤去する事態になったことについて「意思決定の過程に甘さがあった」と指摘した。
県外の公立博物館に勤務する40代の男性学芸員は「政治的、性的な作品に関してはどこででも起こり得る問題だが、展示することで来館者を巻き込んで議論をすればいいと思う」と持論を述べた。
展示会場を同日訪れた、前橋市の60代男性は「白川さんのほかの作品が展示されているので、違和感は感じなかった。作品が撤去された場所に『わたしはわすれない。』と書かれたのぼり旗が置かれていた。白川さんの作品の一つだが、事情を知らなければ、そのまま通り過ぎてしまうかもしれない。(今回の件は)美術館の敗北だと思う」と話していた。