仏大統領選挙 EUの意義尊ぶ選択を - 朝日新聞(2017年4月21日)

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国境の壁を取り払い、人や物の往来を盛んにすることで平和と繁栄を築く――。2度の大戦を経て欧州が始めた壮大な実験が、試練に直面している。
23日に投票されるフランス大統領選挙である。結果次第では欧州連合(EU)の将来に一気に暗雲が立ちこめそうだ。
選挙は混戦模様だ。ただ、EUからの離脱を唱える候補たちが一定の支持を集めている。
フランスは、EUの前身が創設されて以来60年間、ドイツと共に欧州統合を牽引(けんいん)してきた。そのリーダー国が反EUに転じれば、衝撃は計り知れない。
自国最優先の内向き志向が広がる流れを断ち切るためにも、賢明な選択を期待したい。
選挙は、23日に過半数の得票をした候補がいなければ、上位2候補による決選投票が2週間後の5月7日に行われる。
主な候補4人のうち、反EU派は、右翼政党・国民戦線マリーヌ・ルペン氏と急進左派のジャンリュック・メランション氏。ともにEU離脱を問う国民投票を選択肢に掲げている。
フランス第一主義を唱えるルペン氏、自由主義経済に否定的なメランション氏と、基本的な立場は異なる。だが、テロが生んだ社会不安、伝統産業の流出による雇用喪失が、「閉じた国境」への共鳴を広げている。
どちらかが大統領になっても、すぐEU離脱が決まるわけではない。だがEUはすでに英国の離脱決定で揺れている。統合に後ろ向きな政権がフランスに誕生するだけでも、欧州経済は混乱に陥り、国際秩序は不確実性を高めることになろう。
その英国は6月の総選挙実施を決めた。今後本格化するEU離脱交渉に備え、メイ首相が足場固めを狙ったものだ。交渉が難航し、さらなる混乱や新たな離脱国を招かないために、EU側も結束固めが必要な時だ。
ルペン氏が移民規制など排外的な主張を掲げているのも懸念される。人権重視や多様性の尊重など、EUが国際社会に同調を呼びかけてきた価値観が損なわれる恐れがある。
確かに、エリート層による政治支配やグローバル化による格差拡大への庶民の怒りは強まっている。だからといって安易に欧州統合や移民をやり玉に挙げるのは、ポピュリズム大衆迎合)のそしりを免れまい。
EUという単一市場が繁栄の土台になってきたことは紛れもない事実だ。
欧州の国々が価値観を共有し、協調して問題解決に取り組んできた歴史的意義をふまえた判断を望みたい。