避難者いじめ 実情学び考える授業を - 朝日新聞(2017年4月16日)

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東日本大震災原発事故で、福島県内外に避難した子どもたちへのいじめが、この1年間で129件確認された。
震災や事故にからむいじめと認定されたのは4件だけだったが、文部科学省は「すべて把握できたわけではない」と説明している。むろん、これは氷山の一角にすぎないだろう。
「お前らのせいで原発が爆発したんだ」「放射能がうつるから来ないで」と過去に言われた例も報告された。横浜市に避難した子がいじめで不登校になったことが、昨年秋に大きく報じられたのを改めて思いおこす。
「背景には放射線や、避難を続ける人たちへの理解不足がある」と松野博一文科相は述べた。子どもたちは周りの大人の発言や態度に影響を受ける。はびこるいじめは、大人社会の無理解を映す鏡でもある。
県民を傷つける言動を閣僚もくり返してきた。自主避難者の苦境を「本人の責任」と言い放った今村雅弘復興相だけではない。石原伸晃氏の「最後は金目でしょ」、丸川珠代氏の「反放射能派、と言うと変だが、どれだけ(線量を)下げても心配だという人はいる」などだ。どちらも環境相時代の発言だ。
福島に戻る人が増えるほど、復興が進む。あるいは進んでいるように見える。政権のそんな思惑と打算が、避難者に肩身の狭い思いをさせてはいないか。
いじめの原因が「理解不足」にあるのなら、実情を学び、考える機会を子どもたちに提供する責務が、大人にはある。
たとえば福島県教育委員会が作った「ふくしま道徳教育資料集」を使ってはどうか。小中高向けの各版がそろい、県教委のホームページからも手に入る。
避難を強いられた住民の気持ち。「放射能差別」や福島の農産物に対するいわれなき偏見。そうした重いテーマも、実話に基づいて扱っている。
避難生活や福島の現状を描いたルポ、ドキュメンタリーも、教材にできるだろう。放射線の勉強をまじえて総合学習で学んだり、現代社会などの授業で扱ったりする方法もある。
避難するか、とどまるか。故郷に戻って再出発するか、避難先で生活をたて直すか――。一つの正解がないからこそ、福島の人々の選択は分かれた。
「本音で語り、考えが相いれないこともあると認め、互いを尊重しつつ折り合いをつけることを学んでほしい」。福島県教委の担当者の言葉だ。
教え込むのではなく、自分で考えさせる。そんな授業に取り組む良い機会ととらえたい。