(筆洗)なぜ、公認会計士という仕事は生まれたのか - 東京新聞(2017年4月14日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2017041402000143.html
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なぜ、公認会計士という仕事は生まれたのか。歴史学会計学を研究するジェイコブ・ソール氏の『帳簿の世界史』によると、公認会計士を生んだのは鉄道だという。
世界初の蒸気機関車が試験走行に成功したのは、一八〇四年。それから四十年もたたぬうちに英国の鉄道の総延長は九千七百キロになった。米国では一八七〇年までの三十年間に総延長が一万一千キロから八万二千キロになった。
当然、莫大(ばくだい)な資金が注ぎ込まれたが、鉄道会社では粉飾決算がまかり通っていた。それでは安心して投資できぬし、鉄道の経営が破綻すれば、経済や国政にも大混乱をもたらしかねぬ−との危機感から、公的に認められた会計士の集団が生まれたという。
そんな草創期からの伝統を持つのが、世界四大会計事務所の一つプライスウォーターハウスクーパース(PwC)。そのPwCが「まだ解明すべき疑惑がある」と指摘しているのに、決算の発表に踏み切ったのだから、東芝の闇は深い。
原発事業がとてつもないリスクをはらんでいることに目をつぶってのめり込み、ついには会社そのものが炉心溶融を起こしたかのようだ。
鉄道建設をめぐる不正が横行していたころ、作家のマーク・トウェインは、こう書いたという。「鉄道は嘘(うそ)に似ている。建設し続けないと維持できない」。鉄道を原発に置き換えれば、今でも通じる警句ではないか。

帳簿の世界史

帳簿の世界史