包容社会 分断を超えて(上) 子ども・弱者への思いがつなぐ - 東京新聞(2017年4月5日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/world/list/201704/CK2017040502000120.html
http://megalodon.jp/2017-0405-0914-07/www.tokyo-np.co.jp/article/world/list/201704/CK2017040502000120.html

デンマーク前首相・ヘレ・トーニングシュミットさん
ポピュリズム大衆迎合主義)」と呼ぶべきかどうか分からないが、欧州や米国で今起きている事象は人々にとって移民問題が最大の関心事になっているということだ。
その理由は複雑だが、多くの人は社会の変化を不安視し、グローバル化の恩恵を感じられない。コンピューターや人工知能(AI)は家族のあり方、仕事の手法を変え、人々は、グローバル化で生活が一変したと感じていると思う。
不安は簡単な解決策を求めがちだ。複雑化した世界で、多くの人が内向きになり、国家に解決を求めようとしているが、人々の現実の懸念に答えを示すことは難しくなっている。
ポピュリズム」という言葉で、ことさら分断をあおるべきではない。混乱の時こそ、私たちを結束させるものについて語ることが大切だと思う。それは、子どもたち、弱い人々を助けたいという感情だ。
東日本大震災で、日本を助けようという動きがデンマーク国内で盛り上がったのを鮮明に覚えている。「(NGO)セーブ・ザ・チルドレン」事務局長として世界中を訪れているが、子どもの問題について情熱がない国はない。国家や宗教、文化を超え、私たちを統合するものだ。トランプ米大統領に投票した人の中にも、子どもの問題に思いを寄せる人は大勢いる。
私は実践論者であり、熱心な中道派。左派政権であれ右派政権であれ、権力の座にある政党や政治家は、社会の全てのグループに手を差し伸べる責任がある。
連立政権が前提のデンマークでは、全ての政党と連携し、取引することが欠かせない。百年以上の伝統ある社会民主党が(極右とされる)デンマーク国民党を普通の政党と捉えて協調したことを、私は今も誇りに思っている。一定数の人々がなぜ投票し、彼らの不安は何なのかを、探り出すことが必要だ。投票した人を侮辱するのではなく、声を聞き、対話しなくてはならない。
欧州は人権、特に子どもや難民の権利について、世界を主導してきた歴史があり、大きな役割を担っている。欧州の各国政府が、こうした役割から遠ざかろうとする動きを懸念している。私たちは国連の下で個人の権利を築き、擁護してきたことを、いま一度思い返さなければいけない。非政府組織として、原則が守られるよう政府や指導者に問い続けていく。
(聞き手=ロンドン・小嶋麻友美、写真も)
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排除や分断よりも、苦境にいる人びとを包み込む社会へ。「包容社会」を目指す人びとに聞く連載を再開します。上下二回。

<Helle Thorning−Schmidt> 1966年コペンハーゲン生まれ。2005年に社会民主党党首に選任され、11年から中道左派連立政権でデンマーク首相を務めた。15年の政権交代で辞職し、昨年4月からNGO「セーブ・ザ・チルドレン・インターナショナル」(本部ロンドン)事務局長。夫は英労働党下院議員のスティーブン・キノック氏。