<過労社会 働き方改革の行方> (4)宅配疲弊、利用客も助長 - 東京新聞(2017年4月5日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201704/CK2017040502000116.html
http://megalodon.jp/2017-0405-0914-31/www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201704/CK2017040502000116.html

二〇一五年の暮れ、忙しさは前年以上だった。運んでも運んでも荷台が空にならない。
「まだ荷物が届かないんですけど」。また客からのクレームの電話だ。担当地域は傾斜のきつい横浜市内の住宅地。宅配大手ヤマト運輸のドライバーだった高木純一さん(39)=仮名=は電話で遅配をわびながら、重い荷物を手に坂を駆け上がった。
昼ご飯は移動中に菓子や牛丼をかきこみ、夜遅くまで働く日々。脳がぱんぱんに膨らむような感覚に陥ったこともある。「このままポックリ死んでしまうのでは…。四歳の子どもを残して死ねない」。迷った末に昨秋、十年以上働いた同社を辞めた。
一三年、ヤマトがネット通販大手「アマゾンジャパン」の配達を始め、取扱量は急増した。お歳暮、クリスマスプレゼントと続く十二月は特に忙しい。「一日二百個配達。限界を超えていました」と振り返る。
耐えかねた同僚が一人、また一人と去っていく。アルバイトが集まらず、社員の補充もない。深刻な人手不足から長時間労働がまん延していた。高木さんの勤めていた支店では昨年八月、違法残業があったとして、労働基準監督署から是正勧告を受けた。
「日本のわがまま運びます」。かつてのヤマトのキャッチフレーズだ。より早く、より安く、より便利に−。即日配達や送料無料など、利用者の“わがまま”に応えようとするあまり、ドライバーの疲弊に拍車が掛かっていた。
受取人不在による再配達も増えている。高木さんは、再配達の受け付けが終わっているのに「今日中に来い」という依頼まで受けたことも。数年前までは、ほとんど経験がなかったことだ。「サービスがどんどんよくなり、『ヤマトなら何でもやってくれる』と思われたのだろうか」と嘆く。
「『おもてなし』という残酷社会」(平凡社新書)の著者で、心理学者の榎本博明さんは「行き過ぎた顧客第一主義が働き過ぎを招き、客のわがままを増長させている」と、過剰サービスがもたらす悪循環を指摘する。
ヤマトは取扱量の制限や運賃値上げの検討を始めた。「正社員を募集してもなかなか集まらない。このままではサービスが成り立たなくなる」と広報担当者。人材確保のため背に腹は代えられなかった。
毎月ネット通販を利用するという神奈川県藤沢市の会社員東(あずま)純平さん(24)は、宅配ドライバーの苦境を伝えるニュースに触れ、学生時代にアルバイトした弁当配達での経験を思い出した。注文通り届けたのに不在だったときは苦労した。「離職者が増えて、配達そのものができなくなったら困るのは僕ら。そこで働く人たちのことも考えないと」
自宅にいながら欲しいものが手に入るネット通販、終日営業のお店…。便利さの陰で働く現場は悲鳴を上げている。便利さを求めてきた私たちもまた、長時間労働に加担してきた。働き方改革は国任せ、企業任せだけでは解決しない。私たち一人一人の生き方も問われている。 =おわり
(この連載は、中沢誠と福田真悟が担当しました)