(筆洗)残業時間の上限は過労死認定レベルの一カ月百時間未満とまだまだ長い。 - 東京新聞(2017年3月30日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2017033002000146.html
http://megalodon.jp/2017-0331-0914-00/www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2017033002000146.html

<いちめんのなのはな いちめんのなのはな いちめんのなのはな いちめんのなのはな いちめんのなのはな>…。そっくり引用したいが、行数稼ぎかと笑われかねないので途中でよしておく。詩人、山村暮鳥(ぼちょう)(一八八四〜一九二四年)の「風景/純銀もざいく」。菜の花の美しい季節に不思議なこの詩を思い出す方もいるか。
一つの詩の中に<いちめんのなのはな>が呪文のように二十四回。その効果であろう。詩をぼんやりながめているだけで黄色い花々がぱっと広がる。まるで文字で描いた風景画である。
その計画には美しい言葉もある。されど<いちめんのなのはな>のどこかに危険な「穴」も隠れていないか。何のことかと言えば、安倍政権が最大のチャレンジと掲げている働き方改革の実行計画である。
残業時間の罰則付き上限規制。非正社員らの待遇改善のための「同一労働同一賃金」。その明記はなるほど大きな一歩かもしれないが、残業時間の上限は過労死認定レベルの一カ月百時間未満とまだまだ長い。
加えて休日勤務は規制の対象外。運輸、建設業、医師は五年間の適用猶予である。過労死防止に有効な「勤務間インターバル」の具体策はないとくれば、菜の花畑じゅうの「穴」であろう。
<いちめんのしあわせ いちめんのしあわせ いちめんのしあわせ>。その絵がどうしても計画から浮かんでこない。