(余録)「コップ」「ペンキ」「レッテル」などはオランダ語が… - 毎日新聞(2017年3月17日)

http://mainichi.jp/articles/20170317/ddm/001/070/150000c
http://archive.is/2017.03.17-011508/http://mainichi.jp/articles/20170317/ddm/001/070/150000c

「コップ」「ペンキ」「レッテル」などはオランダ語がなまってできた日本語という。活発な女の子をいう「おてんば」は「手に負えない」というオランダ語に由来し、「ポン酢」もオランダのかんきつ類の果汁名から転じた言葉だそうだ。
江戸時代初め、カトリック国が追放されたのに対し、オランダはキリスト教の布教をしない新教国として交易を許された。ちなみに現代のオランダはカトリックが24%、プロテスタント16%、イスラム教5%、ヒンズー教0・6%で、54%が無宗教・その他だという。
もともと世俗主義の精神風土が江戸期に日本との交易を可能にしたのかもしれない。で、世界注視のこの人も無神論者を公言している。反イスラムを掲げる極右の自由党ウィルダース党首で、その党が世論調査で一時は第1党をうかがう勢いをみせた下院選だった。
票が開いてみれば自由党は過去の最大議席にも及ばず、与党の自由民主党が第1党を維持した。ただし与党にせよ「私たちの(自由な)価値観を拒絶する者はこの国にとどまるべきでない」と移民に訴える意見広告を出すなど反移民の世論に取り入っての勝利である。
世俗的風土を背景に欧州でも際立った自由と寛容をはぐくんできたオランダである。だがイスラム教徒の移民を当の自由と寛容への脅威とみなす排外的世論がウィルダース氏を時の人にした。ひとまずはその力を抑え込んだ選挙結果だが、自由と寛容の試練は続こう。
この後に続く仏独の国政選挙での右派ポピュリズム大衆迎合主義)の勢いを占うといわれたこの選挙だった。まだまだ試される欧州の文明の底力である。