(私説・論説室から)早世の社長へ贈る賛辞 - 東京新聞(2017年3月15日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/ronsetu/CK2017031502000142.html
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美しい人生だった。
生まれつき心臓の心室が一つしかなく、重度の先天性心疾患などを抱えた服部義典さん。自らの命を削り、同じ境遇の人の就労拡大に努めた。短すぎる生涯に言葉を失う。
内臓に障害がある「内部障害」は、肢体不自由とは違い「見えない障害」といわれる。「外見では普通に働けると思われがちですが実は無理がきかない。社会の理解が進まないので働く機会を失う人が多い。あきらめず人生に向かう勇気を与えたい」。そう訴えた。
十一年前に就労の場となるIT企業を岐阜県大垣市に起こした。社長として奔走する傍ら「もっと障害者雇用について学びたい」と週一回上京して、法政大大学院の社会人向け講座に通った。その際に泊まるのは安いカプセルホテル。自らの給与を十万円に抑え、従業員の給与や賞与を厚遇していたからだ。
脳梗塞で三回倒れ、心不全は重症化。「無理がきかない」のに、新たにつくる農業の就業施設づくりがあとわずかとなった昨年末、無理がたたり…。四十五歳の若さだった。
三年前、服部さんが心待ちした異色の学会ができた。障害者雇用の拡大に力を注ぐ「人を大切にする経営学会」。設立式典には体調不良をおして東京にかけつけたほどだ。
学会は服部さんの功績に表彰状を贈る。それは「無私」「利他」という最も尊い生き方を貫いた故人へのオマージュとなる。 (久原穏)