「軍事研究しない」学術会議継承 防衛省助成応募は禁止せず - 東京新聞(2017年3月8日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201703/CK2017030802000125.html
http://megalodon.jp/2017-0308-0929-40/www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201703/CK2017030802000125.html


国内の科学者を代表する機関「日本学術会議」の安全保障と学術に関する検討委員会は七日、軍事・戦争を目的とする研究を禁じる一九五〇年と六七年の声明を継承する、との声明案を全会一致でまとめた。研究者に対する防衛省の助成予算が急増する中、助成制度への応募に歯止めをかける狙いで、「政府の介入が著しく、問題が多い」と指摘。ただ強制力はなく、防衛省の制度への応募禁止までは求めていない。
過去二回の声明は、戦争に科学者が協力したことへの反省からまとめられた。半世紀ぶりとなった軍事研究に関する声明案は、四月の総会で会員二百十人の多数決で採決される。
声明案は、防衛省の制度について「学術の健全な発展という見地から問題が多い」と指摘した。研究への参加について、大学などの研究機関が適切かどうかを「技術的・倫理的に審査する制度を設けるべきだ」と提言。民生分野の資金の充実も求めた。研究が適切かどうかは一定の共通認識が必要だとし、「科学者コミュニティ全体が、社会とともに考え続けていかなければならない」とまとめた。
この日の検討委では、出席した十三人全員が声明案に最終的に賛同。議論の過程で、井野瀬久美恵・甲南大教授は「学術の軍事化が進む現状で、二つの声明の重みを継承していくのが学術会議だ」と主張した。
また岡真・東京工業大教授は、防衛省の制度を巡り「入り口(応募時)に審査するだけでなく、研究の管理も大学が責任を負う制度にすべきだ」と述べ、「自衛のための研究は認められるべきだ」としていた大西隆・学術会議会長(豊橋技術科学大学長)も、防衛省の制度の予算拡大には否定的だった。
委員長の杉田敦・法政大教授は委員会終了後、「常設委員会の設置なども含め、継続的に軍事研究に関する議論を続けていくことも検討していきたい」と話した。

◆審査制度提言 歯止め疑問
<解説> 今回の声明案は、防衛省による軍事研究の助成制度に警鐘を鳴らし、研究者の参加を審査する制度を提言したものの、直接的な「応募禁止」には踏み込まなかった。加速する軍事研究に歯止めをかける声明を出すため、さまざまな考えを持つメンバーの妥協点を探った結果と言える。
防衛省の公募制度の予算は、制度が始まった二〇一五年度に三億円、一六年度に六億円、一七年度は百十億円と急激に増加している。新たな声明案には、委員から「(歯止めとして)トーンが甘い」などの意見も出た。各大学に応募の可否を審査するよう求めていることから、「大学が判断すれば、応募してよいとも読めるものだ」という懸念の声も上がる。
一方で、「自衛のための軍事研究は容認する」というメンバーもいる。両者が納得できるようにつくられた声明案を、ある委員は「巧みに組み合わせた積み木」と表現した。
防衛省の制度ではこれまでに十九件の研究が採択された。軍事の世界に、日本の科学者が再び巻き込まれる環境ができつつある。今こそ、過去の声明にある、「研究成果は平和のために奉仕すべきだ」という原点に立ち返るときだ。 (望月衣塑子)