「共謀罪」 市民監視の脅威となる - 東京新聞(2017年3月4日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2017030402000170.html
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政府が創設したい「テロ等準備罪」の原案は、やはり「共謀罪」と趣旨が同じだ。処罰対象を二百七十七の罪名に絞り込んだというが、一般市民が対象となりうる罪も含み、到底賛成できない。
安倍晋三首相は「二〇二〇年の東京五輪パラリンピックに向けて創設が不可欠だ」と国会で強調した。だが、これは国民を誤信させる。あたかもテロ対策の法案だと思わせるからだ。
実際に明らかになった原案には、テロの定義もテロの文字もなかった。これでは看板と中身が一致しない。しかも、目的は国連の国際組織犯罪防止条約の締結であるから、どう考えても共謀罪である。
国連が求めるのは、国境をまたぐマフィアなど組織犯罪対策だ。金銭的・物質的な利益を得る犯罪、つまり麻薬や人身売買、マネーロンダリング資金洗浄)などが念頭にある。国連の立法ガイドには「目的が非物質的利益にあるテロリストグループは原則として含まれない」と記していることからも明白だ。
日本の場合、共謀罪を創設しなくとも、マフィアや暴力団などの犯罪に対処できる国内法は十分に整っている。とくに重大な犯罪については、十三の共謀罪、三十七の予備罪も持っている。つまり現行法のままで条約を批准できる−。そんな議論によって、過去三回、この法案を阻止・廃案にしてきた経緯がある。
今回の場合は、政府が法案に「テロ」を冠することにより、テロに対する国民の不安を利用し、共謀罪を成立させる発想があるのではないか。そう疑われても仕方があるまい。政府は現在、法案にわざわざ「テロ」の文字をあえて入れる方針を決めたが、あまりに本末転倒である。
処罰対象の罪を六百七十六から二百七十七に絞ったが、一般市民が対象になる恐れが残っている。実際に、正当な活動をしている普通の団体であっても、その目的が「犯罪を実行する団体」に一変したと認定されれば、「組織的犯罪集団」とみなされる。政府はそんな見解を出している。その判断は捜査機関などが担うのだ。
極めて危うい。これでは一般市民が「座り込みをしよう」と話し合い、準備にとりかかれば、何らかの犯罪行為とみなされて、一網打尽にされる可能性がある。こんな発想を持つなら、もはやマフィア対策どころか、狙いは市民監視にあると疑われよう。