(余録)もし悪いことをすれば必ず天罰が下る… - 毎日新聞(2017年2月12日)

http://mainichi.jp/articles/20170212/ddm/001/070/120000c
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もし悪いことをすれば必ず天罰が下る。天の網は大きく目も粗いが、悪人を漏らさず捕らえるのだ。天網恢々疎(てんもうかいかいそ)にして漏らさず。昔の中国の思想家、老子は言った。だが今の日本では「網の目」をめぐって議論が過熱する。
政府が新設を目指す「テロ等準備罪」のことである。法の網の目を細かくし、テロや組織的な犯罪を準備段階でも処罰できるようにするのが目的だ。安倍晋三首相は法整備ができなければ「東京五輪を開けないと言っても過言ではない」と言い切る。野党は「今ある法律でも対処できる」と反論し、かみ合わない。
テロ等準備罪は元々「共謀罪」という名前だった。うっかり口をすべらしただけで罪に問われるのではないか。そんな国民の不安もあり、共謀罪関連法案は過去3度廃案になっている。政府は今回、「共謀罪とは全く違う」と主張するが、法相の答弁も迷走し、納得できる説明が聞けていない。
実際、法律ができたらどんな捜査が行われるのだろう。犯罪が起きる前に摘発するには、計画を話し合う電話や電子メールを傍受するのが有効な手段だ。警察庁が全国の警察に対し、捜査に利用したことを表に出さないよう通達を出していたGPS(全地球測位システム)もひそかに使われるかもしれない。
「共謀」の「謀」は「はかりごと」と読む。「某」は人名、日時、場所などが不明のことを意味する。誰が、いつ、どこで何をたくらむのか。四六時中、網を張り巡らせて国民を監視する。
その分、悪事に関わらない人まで一網打尽にされる心配は消えない。問われているのは、どんな社会になるのかを考える想像力だ。