金田法相 責務忘れた「質問封じ」 - 朝日新聞(2017年2月8日)

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閣僚の責務と使命を忘れ、国会、そしてその国会に代表を送りこんでいる、主権者たる国民を愚弄(ぐろう)した話である。
衆院予算委員会で「共謀罪」をめぐる質疑が続いていることを受け、金田法相が「導入のための法案が国会に提出された後で、担当局長も加わって、法務委員会で議論すべきだ」とする文書を事務当局にまとめさせ、報道機関に配布した。
きのうになって「国会に対して審議のあり方を示唆するものと受けとめられかねず、不適切だった」と述べ撤回・謝罪したが、それで済む話ではない。
法相によると、問題の文書は答弁に臨む「自分自身に向けたメモ」だったという。
たしかに、法案の詳細が固まっていない段階では説明できない点もあるだろう。細部にわたる質問には、官僚の手助けを受けたほうが正確な回答ができるという事情も理解できる。
しかし、だから今はまともな答弁をするつもりはない、というのでは考え違いも甚だしい。
共謀罪に関する法案は、この国会の最大の論点のひとつだ。人権と治安にかかわる問題で、国民の関心も高い。
与野党を問わず国会議員が政府の考えをただすのは当然で、それに誠実に向き合い、説明を尽くすのが閣僚の務めである。質疑を通じて疑問や批判がどこにあるかを見きわめ、法案づくりに反映させることは、政府にとっても有益なはずだ。
それなのに、自由な議論を否定するような態度を見せ、自らの正当性を記者に訴えるとは、閣僚としての資質が疑われる。指示されたとはいえ、そんな法相をいさめもせず、文書を作って配布した法務省の役人の状況対応能力の欠如にも驚く。
法相の主張が著しく説得力を欠く理由に、安倍政権の国会運営の強引さも挙げられる。
特定秘密法や一連の安保法制がそうだったように、国会での論戦を通じて数々の問題点が浮上しても、一定の審議時間がくれば質疑を打ち切り、数の力で成立させる。それがこの内閣と与党が重ねてきたやり方だ。
こうした強権的な体質を棚にあげて、「法案が提出された後に充実した議論を行うことが、審議の実を高め、国民の利益にもかなう」などと訴えても、言葉通りには受け取れない。
共謀罪をめぐるこれまでの答弁は、首相をふくめ、過去の政府見解との整合を欠き、都合のいい内容に終始している。加えて、この「質問封じ」だ。
国民の理解を得るまでの道のりは、はるかに遠い。